陽もとっぷりと暮れた頃。





 漸く掃除を終わらせた俺達は、其々帰途に着いていた。

 帰る時に「土産だ!!全部食え!!」などと言って俺達に手作りだという菓子を持たせたアイツは、相も変わらず底抜けの笑顔で。





「なあ、サスケ」

 横を歩いていたナルトが、前を見据えたまま声を掛けてくる。

「何だ」





「お前、の事、どう思う?」





 ソレはさっきまでバカ騒ぎしていた声では無く。素に戻った時のナルトの声。

 ほんの少し、窺う様な気配に、思った事そのままを口にした。





「バカでお人好しでウスラトンカチで煩せぇ、本当に俺らより年上かって思っちまうくらいのてんでガキ」

「ははっ、そっか」









 
「――――――は、見せ掛け」









 
 静かに笑うナルトに、俺は締め括る様に付け足した。

 ナルトの影が止まる。少し遅れて、俺の影も、止まる。





「アイツだろ?お前が救いたいっていうのは」

「・・・・・・良く、判ったな」





 心底驚いているらしい相手に、振り返り、ふ、と笑う。





「お前を、知っているからな」

「・・・・・・あー、何となく判るわ。ソレ」

 複雑そうに顔を顰め、再び歩き出したナルトに、俺も再び歩を進める。





「猫の被り方はお前の方が上だな」

「ったりめーだ。里中騙し切ってもう10年近いんだぞ。それにしたって・・・・・・俺ですら1年近く判らなかったのに。良く一日で見破った

な。あいつの化けの皮も結構分厚いのに」





 釈然としないらしい。確かにその気持ちも判らないではないが。

 そんなナルトにくつくつと小さく笑いながら返してやった。





「だから言っただろ。俺は、里中騙し切ってもう10年近くのお前を知ってる」

「厭味か、ソレ」

「かもな――――――まあ安心しろ。お前やアイツの化けの皮を見破れるのは、俺だけだ」

「おお、すっげえ自信」

「自信じゃなく、実際に見破られたじゃねーか。お前もアイツも。俺だけに」

「けっ」





 吐き捨てるナルトは不機嫌そのものだが、その表情程気配は不機嫌そうではない。





 それはそうだろうな――――――だってナルトは、見破って欲しかったんだから。

 自分の時と、同じ様に。アイツの事を。誰かに・・・・・・俺に、見破って欲しかったんだ。

 独りで在る事の狂気を、知っている俺に。

 俺を、共犯にする為に。





 そして俺は。お前と共に走ると誓った俺は。

 全く異なった修羅を見てきながら、けれど何処か根っ子の方で似通っている、俺達は。





「なあ、ナルト」

「うん?」





 土産を抱えていない方の手をほんの少し伸ばすと、ナルトの手に指が当たり。

 するりと指を絡めて握ると、柔らかく握り返してくる。





「どうやら俺は、お前とは違う意味で凄く気になるヤツが出来たらしい」





 ちらりとその横顔を見ながら告白すると、同じ様にちらり、と視線だけを動かし。

「ふぅん?そいつってどんなヤツだよ」

 何処か面白可笑しげな白々しい訊ねに、白々しく答えた。





「お前に、似ているヤツだ。そして俺にも、似ているかもしれない」

 そして思い浮かべる、俺達と同じ様に孤独の意味を真に知る者。

 何故そんなものを知ってしまったのか、其れは追々知っていけば良いだろう。





 ――――――それにしても。





「浮かべる表情の、何時も何処かしらに違和感があった。例えるなら空洞の様な――――――アレは相当、深いぞ?」

「知ってる」





 真顔で問えば、真顔で返る、声。





「覚悟しとけよ、サスケ」

「お前こそな」





 敵に回すのは殊更に巨大で厄介な相手なのだろうだが。

 強気に出られるのは、まだ幼い俺達子供の特権。





 理不尽など。不公平など。

 そんなものを感受しているアイツの意向など、事如く蹴散らして。

 何時か。アイツを囲う分厚い壁を。

 絶対に。





「「ぶち壊してやる」」





 揃った声に、思わず目を合わせ。

 笑いながら歩く、帰路へと続く道。









 









 






<<バック                    バック トゥ トップ>>