「すっげー、気になるヤツがいるんだ」





 物の少ない部屋。背中をくっつけ合わせる様に座って。

 巻物を読んでいた俺に、忍具の手入れをしていたナルトが、言った。





「気になるっつーか。何か、ほっとけねーって感じ」

 手を止めないまま、ぽつぽつと独り言の様に続けるナルトの背中に、俺は体重を掛ける。





「何だ、浮気か?」

 巻物から目を離さずに聞けば、そういうんじゃねーけど、と小さな応え。





「サスケ。お前はさ」

「ん?」

「何時か、オレのトコまで昇って来るだろ。オレと肩を並べて立てる場所に。自力で這い上がって来れるだけの強さがあるだろ」

「当り前だ」





 ソレは、俺が今持つ二つの野望の内の一つ。

 この金色の、野生の獣の如き忍と。何時か。同じだけの強さを持って。

 互いの背を、預け合える程の強さを持って。

 共に、高みを目差すのだ。忍として・・・・・・そして、人として。

 誰が、手放すものか。





 速攻で答えてやると、ナルトの気配が笑みを帯び。

「オレだって、そー簡単に手放さねーよ」

 ふっ、と消えた支えに、身が傾ぐ。





 気付いた時には、冷たい床を背に。蒼い、双眸を目の前に。





「お前はオレのもので、オレはお前のものだ。此れまでも。そして此れからも。其れは絶対に変わらねえ」

「・・・・・・ああ、そうだな」





 静かに頷くと、闇夜の蒼月の様な輝きで、静かに笑う蒼い瞳。





 しかし其れはゆらりと小さく揺れ。縋る様に抱き締められた。

「ナルト?」

 あやす様に背を叩けば、耳元で吐息の様な声音。





「・・・・・・けど、ソイツは、さ。弱くて、脆くて・・・・・・見てて痛いんだ」





「・・・・・・そうか」

「こんな事言うのも何だけど、ソイツ、ちょっと前のオレに似ててさ。んで、サスケにも似てんだよ。ソイツに対して、すっげー失礼だって

判ってんだけど、どうしても重ねて見ちまう」

「同情・・・・・・という訳か?」





「そうじゃねえ。其れこそソイツに失礼だ」





 聞き返すと、ぎゅっと抱き締める腕が力を増して。

 俺は落ち着かせる様に、目の横の金の髪を掻き混ぜる。





「・・・・・・只、不公平だ、って思うだけだ。オレは、救われたのに」





 ほろり。耳元で落ちた呟き。何が言いたいのか、判った気がした。

「・・・・・・仕方ない。世の中、理不尽な事が多すぎるのは当り前だ。幸があるから不幸がある。皆が皆幸せになれる世界なんて無い。

そういうもんだ」





 俺だって救われた。人であった頃の心を取り戻した。一つの存在によって。

 しかしその存在は、未だ多くの人にとって、憎悪という名の不幸の偶像。





 しゃらり、と音がしそうな髪を、掻き混ぜて。

 ぎゅっ、と息が苦しくなるくらいに抱き締められて。





 多分、ナルトの目は今泣きそうに歪んでる。

 そして多分、俺の目も同じ様に、泣きそうに歪んでる。





「そんな事。オレだって良く知ってる。だけど・・・・・・」









 
 オレは、アイツを救ってやりたい。









 
 俺の耳に響いた其の囁きは。

 おこがましいと判っているからこその。





 音の無い、言葉。









 









 






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