禁術書の奪取と、盗んだ他国の忍達の始末。





 悠に二週間ぶり。暗部として呼び出されてみれば。

 伝えられた内容に、其の程度の仕事かと、内心落胆する。





 しかも。たった其れだけの為に集められた忍の数は、己を含め四人。

 些か多いのではという感が、否めない。





 更に付け加えるならば、どれも『表』で見た顔だ。

 内一人など、直属の上司。





 顔の半分以上を布で覆い尽くした銀の髪と。

 拷問で受けた傷だらけの顔と。

 血の気の多そうな女忍者と。





 眺め渡し、吐息にもならぬ溜息一つ。





 既にやる気すら突起しない心情に、流石に火影は察したか。

「行ってくれるな、『夜』よ」

 問い掛けに、佇む忍達が驚きを見せた。





 当り前といえば当り前か。

『夜』とは、暗部の中でも最強と謳われる、火影の懐刀の一つ。





 知れ渡っているのは其の呼び名のみ。其れすら、真名なのかどうかも判らず。

 全てが謎に包まれ、全てを煙に撒く。

 組む者全てが足手纏いだと斬り、其れだけの理由で単独が多い。里一番の凄腕。





「其れが任務とあらば」





 予想通りの顔見知りの反応に、何の特徴もない黒髪黒目の青年に化けたナルトが答え狐の面を着ければ。

「今回の相手は少々厄介な相手でな。もう1人暗部を付ける事になっておる」

 火影の声に、面の下で目を細める。





 元暗部。特別上忍。里最強。

 此れに未だ誰かを付けるのか。





「そのー、もう1人の暗部とやらは、今何処にいるんすか?」

 仮にもS級の任務に。

 今、この場に姿の無いふざけた人物は。





 相も変わらず眠たげな、声と口調の『表』の上司に、チラリ、と視線。

 不本意なれど、思った事は皆同じ。

 火影は人の食えぬ様な笑みを浮かべたままだ。





「召集に遅れる様な忍など、使い物にはならないだろう。俺達だけで行く」

 言い捨て踵を返した、其の直後だった。




 




 
「噂には聞いてたけど、キッツイ言い方するねオタク」




 




 
 思わず其々が身を屈め、各々武器を持ち構えを取る。

 酷くゆたりと声の主を探せば。

 ――――――己達の背後、部屋の隅。

 壁に寄り掛かり腕を組む黒尽くめ、一人。





 目しか彫られておらぬ白い能面。

 しかしこめかみに生えた角から見て、彼れは鬼を模したものか。

 鬼ならもう少し形相悪い方がらしいのではと思うが、此れは此れで薄気味悪い。





「おったのか」

「いましたともさ。最初から」

「ならば、説明せんでも良いな」

「密書の奪還と盗んだ阿呆共の始末だろ?ちゃんと聞いてましたって」





 飄々とのたまう火影に、飄々と返る声。

 しかし其の内容に、内心息を呑むのは蚊帳の外となった忍達。





「・・・・・・始めから、この部屋に・・・・・・?」





 呟くカカシの声が遠い。

 鬼の面の暗部は微かに笑みの雰囲気を纏う。





 己の評価を過多する気は無いが、何れも手錬た忍。

 しかし誰も・・・・・・そう、木の葉最強と自他共に認める『夜』・・・・・・ナルトですら、其の気配を読めなかった。





「それにしてもスゲェ顔触れ。俺一人いなくたってイイんじゃねぇ?」

「だからと言うて手を抜くでないぞ、『月』」

「へいへい。判ってますって」





 明くまでも、最初から最後まで飄々と。

 短い会話を交わす火影と暗部に、忍達の目が瞠目した。





「・・・・・・『月』だって・・・・・・?・・・・・あんたが・・・・・・?」





 火影の、『夜』と対を張る、もう一振りの懐刀。

 存在と、名しか聞いた事も無い相手。





 木の葉の里、影の双璧。

 其の二つが、初めて揃った瞬間。




 




 




 




 




 




 
 盗人を追って、早一刻。





 森の中、見つけた敵は、悠に十名。

 急ぐでも無く、しかし確実に気配を足音を消し進む姿。





 木の葉の追い忍達は、素早く視線を合わせ。

 瞬時にして、其の姿を消した。





 奇襲は上々。

 彼等は、僅か半刻足らずで、十の屍を築き上げた。





 ――――――彼等の内、四人だけが。





「はい、コレで終〜わり、っと」

 カカシの間抜けた声と共に、どさり、と音。





「ちょっと物足りないカンジね」

 其の後方で、クナイをホルスターに仕舞いながら面白くも無さそうにアンコがぼやく。





「まあ、そう言うな」

 苦笑じみた声音で彼女を宥めるのは、イビキ。





 其れを、何とはなしに意識の隅で聞きながら。

 奪還の対象である巻物を手にしたナルトは、うっそりと振り返り鬼の面を見据えた。

 悠然と腕を組み、大木に背を預け、最初から最後まで高みの見物と洒落込んでいた、暗部を。





「・・・・・・お前、動く気が無いのなら、何故此の任務を受けた?」

 ひたり、と。声に視線に鋭い刃を乗せて。





 くつくつと、鬼の面の下から小さな響き。

 癪に障り、ナルトが喉元狙ってクナイを投げれば。白い細い指が寸でで其れを止めた。

 『夜』と『月』。木の葉の双璧が対峙する。





 一触即発。





 滅多に無い兵同士の光景に、一体技量はどちらが上かと好奇心を刺激されつつ。

 其れでも止めに入る為に他三人が動こうとした時。





 ナルトの足元に転がっていた、屍がザッ、と動いた。





「なっ!?」

 四方や動くと思っていなかったモノに、反応が遅れる。

 振り翳される腕。

 取られた、と。誰もが思った――――――其れは正に一瞬。




 




 
 斬




 




 
 肉の絶たれる音。新たに香る、血の香り。





「・・・・・・お、前・・・・・・」





 呆、とナルトが呟く。





 己の身体を引き寄せた腕。裂けた黒服。紅い傷。

 其れは、誰よりも早く動きを見せた『月』のものだった。





「俺は正規の忍じゃない」

 耳元で、面に覆われくぐもった声。





「だから、俺の任務もオタク等が請け負う様な正規のものじゃない」

 まあ、暗部に与えられる任務に正規も何も無いんだろうけど?





「じーさんが言ってたろ。『今回の相手は少々厄介だ』って」

 酷く。酷く深い傷を負いながら。痛みなど感じていないかの様な。心底。心底愉しげな声音で。





「俺に回されるのは。殆どが、こーゆー事態が起こりうる可能性のある任務だ」





 其れはどういう意味だ、と。『月』の面を、未だ腕の中のナルトは見上げ。

 困惑した眼差しに気付いた鬼の面は、ふ、と其の細い身体を背後へ押し遣り。




 




 
「こっから先は俺の領分。つかオタクら邪魔。もー帰っていーぜ?」




 




 
 笑みを含めた台詞は、忍の自尊心を逆撫でする言葉。




 




 




 




 






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