その日。

誰もが美しい歌を耳にした、日。

世界は。

七色に染まったと云う。




















* * *




















空は、貫ける様に青い。

自室のベランダで長い間、彼は空を見上げていた。

耳が拾うのは階下のざわめきと、ほんの少し強い風の音。波の声。





其処へ、静けさを壊さぬ様な、軽いノックの音。





「入れ」

「失礼致します――――――ルーク様、導師様方がいらっしゃいました」

「解った、直ぐに行く」





栗色の髪のメイドの告げた言葉に、部屋の主は短く応え。

もう一度、空を仰いだ。




















彼れから、二年の月日が経った。





ふたつの大国は手を結び、預言絶対の教えは指針を変え。

毒の空は清しく浄化され、割れた大地は豊かに実りを見せ始めた。





子爵の地位を賜ったルーク・フォン・ファブレは、ファブレ公爵よりコーラル城を譲り受けた。

世界の滅びと再生を、望んだ男の残したものの為に。

己と同じ、作られた人型を育てる為に。





彼れから、二年。

コーラル城周囲の領地には、小さな村が出来上がっていた。




















「久し振り!!ルーク!!」

「ひっさしぶりー!!」

「こらっ、フローリアン!!エバー!!ルーク『様』でしょ!?」





朱色の髪の青年に、駆け寄る2人の緑の髪の少年。

其の後ろで、緩やかなウェーブを描いた黒髪の、少女が2人を追い掛ける。





そんな彼等に青年は薄く表情を和らげ。





「いや、敬称はいらねぇってアニス」

「・・・・・・え、ですけど・・・・・・」

「今日は遊びに来たんだろ?だったら堅っ苦しいのはナシだ。勿論お前も。な?」





静かに柔らかに。微笑む青年の優しい声音に、少女も静々と頷く。

其れを見届けた青年は、遅れて来た、落ち着いた、けれど矢張り緑の髪の、少年2人に目を向けた。





「久し振り、イオン、シンク」

「ええ、お久し振りです、ルーク」

「元気だった?て、聞くまでもないか」





穏やかに笑む少年と不敵に笑む少年。

其れは、きゃらきゃらと青年に纏わり付く、2人の少年と同じ容姿で。

けれど全く、違った表情。





其の彼等と、何時もは共にいる筈の、桃色や他の緑が何処にも見えなくて。

青年は、ほんの僅かに首を傾げる。





「アリエッタやアイビィ達は?」

「ああ。あの子達なら、先程ガイを引き摺って村内検索に向かいました」

「検索っていうか、漆黒の夢も公演しに来てるでしょ。ソレ見たいってリョクとフォーレ、ビジーが騒いだんだよね」

「先ずはルークに挨拶してからにしなさいって言ったのに」





にこやかに、飄々と、呆れた様に。

三者三様の声音に、青年は、金の髪の使用人が見当たらない事にも気が付いて。





「ルーク!!ルークも行こうよ!!」

「サーカス、見に行こうルーク!!」





懐く2人が手を取り、引っ張る。

青年は苦笑して、引かれるが侭に足を運ぶ。




















城から出れば、眩い光。

毒の抜けた、青い空。





駆け出す2人の子供の、黒髪の少女の。華咲く様な笑い声。

見守る様に、目を眇める2人の少年。一歩下がった右側に、微笑むメイド。

少し先から、此方に気付いた使用人が手を上げる。

傍らの桃色が4つの緑が、気付いて同じ様に手を振った。





村人と成った人々が、朱の髪に気付き礼をする。

在る者ははにかむ様に。在る者は元気な声で。

ひとつひとつ、穏やかに笑みを浮かべながら。返事を返す。





――――――其の、青年の傍らを。

静かに横切った、小さな子供。




















「わらって。こころ、から――――――そして、しあわせに、ね」




















「――――――え?」





瞠目、した。

足を、止めた。





振り向く。

行き交う村人。聳える城。





確かに今、擦れ違った筈の子の。

其の、瞳の虹彩は。





「・・・・・・・・・・・・アッシュ・・・・・・・・・・・・?」





天上の歌を残して消えた、綺麗なきれいな彼の人の。

此の世にふたつと無い。

朱金と、青銀。




















「ルークー!?どうしたのー!?」

「早くしないと始まっちゃうよー!?」





青年を呼ぶ、子供の声。





「どうかなさいましたか、ルーク様?」

「何か、あったのか?」





近付いて来たメイドと使用人の、呼び掛け。





「――――――・・・・・・・・・・・・いや・・・・・・・・・・・・」





青年は、俯き。一度、目を閉じて。





「いや、何でもねぇ」





一息の後、朗らかに。

顔を上げて、笑った。




















* * *




















何時か。





『此処』では無い何処か。

『今』では無い時に。





願わくば、其の時は今度こそ二人どちらも欠ける事無く。





また、お会い致しましょう。

『あたし』と『俺』が愛した魂達。








































お   わ   っ   た



ココまで読んで下さった方に感謝カンゲキ雨アラレ!!






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