そんな、諦め半分であたしが同行を許可した2人は。

やっぱり何だかお忍び、とは縁遠そうな雰囲気でにこにこしてる・・・・・・わんこだけ、だけど。

あたしは大丈夫なんだろーか、とオカンと顔を見合わせた。




 




 




 






日の本、真っ二つに判れる、の巻。

〜蒸し返さないでお願いだから。〜





 




 




 




 
そんなあたし達の心中にも気付かずに、何だか楽しそうにしてたわんこが突然、あ、と顔を上げる。

んん?早速ナニ。





「あの、殿・・・・・・槍を、置いていけ、と言われましても・・・・・・今から小田原城に戻れば、大幅に予定が狂いまするが・・・・・・」





・・・・・・あー、まあ。確かに。

あたし達が今立ち話をしてるのは、相模と駿河の国境を跨ぐ様に鎮座してる、鬱蒼と木々の茂った森の中。

だけど。





「んなの、虎神にでも預けておけばイイよ――――――良いよね、虎神?」





アッサリ。

言いながらちろん、と視線を背後にやったら、がさがさ、と茂みが大きく鳴った。

そして、ソコから出てきたのは。





     『何だ、気付いておったのか』

「当たり前っしょ普通気付くっしょ森に入ってからずーっと後着けられてたら」

     『其処な人間達は気付かなんだが』

「俺とこの2人を一緒にしない。俺は術者。この2人は武将と忍。この違いはでっかいよ?」





わんことオカンが驚いてるはたで、あたしは呆れた目を虎神に向ける。

まあでも、丁度良いトコにいてくれた。





「で。わんこの槍預かれる?」

     『相解った。其の辺りに立て掛けておいてくれ。後で獣達に小田原の城に届けさせよう』

「う、うむ。其れでは、お頼み申す虎神様」





快く頷いてくれた虎神に、驚きつつもわんこは言われた通り、槍を近くの木に立て掛ける。

うん。コレでこの件は解消。

・・・・・・んー、だけど。





あたしは首を傾げて、再度虎神に向き直る。

「つか何で後着けてたの大丈夫なのオタク俺に近付いて」

     『ふむ、御子が相模を出ると鳥達に聞いたのでな。今一度顔を見ておこうかと。大丈夫、とは?』

聞き返さないでよ。解ってるクセに。





「だって今の俺、多分オタクにしたらどんな瘴気よりも強い猛毒だろ」





今は頭ん中に箱作ってそん中に 『思い出し』 た事全部突っ込んで、見ない様に意識逸らしてるけど。

・・・・・・・・・・・・こないだだって、虎神の声がなかったら絶対に正気なくしてた。





     『大丈夫だろう。今は何も感じぬしな』





だけど虎神はアッサリさっぱり。

あんまりにものほほん、とのたまってくれるから、コッチも何だか拍子抜け。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いやいやでもだね。そうは言うけどね。

「けど封印壊れちゃったし。何時ドカンってなるか解んないし。今のウチに離れとく事をオススメするね俺は」

     『今離れた処で、御子が染まってしまえば何処にいようが同じよ』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うっわあソコまで言いますか。言い切っちゃいますか。





「・・・・・・・・・・・・そんな酷いかな俺?」

     『内心では、そんなモノを抱え込みながら良く狂わぬものだと思うておるよ――――――否、或いは既に、狂うておるのか?』





のほほん、と聞いてくるにしては少々過激な質問ですな。

つか、アレから時間けっこー経ってるのに、虎神がソコまで言うくらいまだ凶悪オーラがダダ漏れなのか。そーなのか 『私』 の記憶。

あ。いかんいかん。そっち方面は考えるな、あたし。





そんな問答をしてたあたし達に、横から口を挟んできたのはオカンだった。

「・・・・・・・・・・・・あのー。2人で別世界作らないでくれませんかー。」

ん?と思って顔を上げれば。





「てゆーか何だか物騒な単語がさっきから出てきてるんだけど。なぁんかちょっと、聞き逃せないんだけど」

イヤイヤ聞き逃して下さい。さらっと。お願いします。

「・・・・・・殿が、狂っている、とか・・・・・・?其れはどういう事でござるか虎神様!?」

・・・・・・・・・・・・うん。ヒートアップしないでねわんこ。相手神サマだから。喰ってかからないでね。





「・・・・・・・・・・・・んー。どういう、って言われてもね。俺にだって人には明かしたくない過去のひとつやふたつや100や200はあるんだぞ、って事で」

「そ、それは・・・・・・いや、そうでござるな。申し訳ござらん、殿。不躾な質問をしてしまって」

「いやいや旦那ソコで引いちゃダメだって。軍医の旦那もその気持ちは解るけどね。ソレだけじゃ解らないから。てゆーか100や200って多過ぎだから」

「えーだって1から1000まで説明するのもメンドクサイ。」

「いやだから1000ってそんなにないでしょ絶対。そんなトコで横着しないでお願いだから」





むう。やっぱしオカンは喰い付くか。

わんこだけなら、情に訴えかけるだけでおっけーだったのに。

・・・・・・ああもう。ホンット面倒な事になってきそうな雲行き。

つか話どころか思い出したくもないってのにあんな事とかそんな事とか。





     『人の子よ。我が祟神に堕ち掛けた理由は知っていよう?』

「・・・・・・あー、ええ、まあ、はい」

     『過去、狂気に堕ちた事のある者は。其の狂気を己が裡から完全に消し去る事は出来ぬのだよ。我も――――――御子も、な』





あう。助け舟は有り難いけどそんなストレートに言っちゃう虎神?

・・・・・・・・・・・・って、そーいやあたしこの人達の前で人間憎い、なんて爆弾発言投下した事あったっけ。

ソレじゃ、隠す理由もないか。





「そだね。消えないね」

サラッと同意したら、わんこもオカンもなんか複雑そうな顔であたしを見た。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。あたしの方が複雑だ。

     『故に、汝等に頼む。御子が堕ちぬ様、見ていてやってはくれぬか』

しかもナニ虎神アンタあたしのおとんかっつーの。





だけど、そんなあたしのココロの中のツッコミなど露知らず。





「承知仕った!!この真田源次郎幸村、決して殿が狂気に侵されぬ様殿の心の支えとなろう!!」

「ま、軍医の旦那は俺様達の命の恩人だしねー。見捨てたりはしないって、多分」





武田の主従は、意気揚々と受け答えなんてしたり、していた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わんこは兎も角、オカンの言い様には喜ぶべきなんだろーかあたし。




 




 




 











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