日本語でも英語でもない。

とある 〈界〉 に行けば確かにヒュムノスと呼ばれているだろう言葉。

独特で、不思議な発音のその言葉を。あたしが本気で謡うのは、コレで2度目。




 




 




 






禍神、現る、の巻。

~2度と使うまい、と思っていたけど。~





 




 




 




 
「     Rrha ki ra tie yor ini en nha.     」

1息目。淡い緑の小さな魔方陣があたしの足元から発生する。

「     Wee ki ra parge yor ar ciel.     」

2息目。エーテルを糧に生きる精霊達が、あたしのこの声に、気付く。





「・・・・・・何だ、これは・・・・・・歌?こんな時に・・・・・・?」

「・・・・・・いえ、ただのうたではありませんよ、つるぎ」





「     Was yea ra chs mea yor en fwal.     」

3息目から、淡かった魔法陣の光は徐々にその輝きを増して。

「     Ma ki ga ks maya yor syec.     」

4息目。やっと精霊達が集まり出し。





「・・・・・・ねぇ、竜の旦那。何て言ってるか解る?」

「・・・・・・いや、解んねぇ。南蛮語じゃ、ねぇ」





「     Linen yor akata ar ciel. hymme xest pauwel. En titilia forlinden. grave sik yeeel.     」

抑え付けていたものが解放されたかの様に、魔方陣が一気に広がった。

遠く高く何処までも。響けと紡ぐあたしの声に、つられる様に精霊達も、謡い出す。





「・・・・・・お館様・・・・・・声が・・・・・・声が、聞こえまする・・・・・・」

「・・・・・・おう、ワシにも聞こえおるわ・・・・・・まるで、あの者の歌に応える様に」





「     Der foul en cyuie selena la harton. der diasee Harvestasya. en forlindel Myu. Gran sos ee HYMMNE...     」

風が踊る。大地が鼓動を鳴らす。あたしのエーテルを糧にして、病んでいたモノ達が力を取り戻す。

蛍めいた光が一斉に辺りを埋め尽くし、筆頭さん達も屍肉喰らいも、さっき作った闇まで、緑一色に染め抜いていく。





願うのは、癒し。

求めるのは、安らぎと平和。

望むのは、美しく萌える、命満ち溢れた地。





「・・・・・・凄い、な、先生・・・・・・こう言っちゃアレだけど・・・・・・なんか、怖いくらい、だ」

「・・・・・・ああ・・・・・・政宗様も、とんでもないものを気に入られたものだ」





ただ、命が。命の中で、命として生まれ、生き。

優しく老いた後に絶え。土に還って新しい命を生み、生かす。

そんな。当たり前の。だけどかけがえのない、命の、輪を。

あたしは、望む。





「     鬼霊か 魔呪詛か 彼の開かぬ目の ただ伏せ泣く 巫女の手を     」

サビの部分に入った時には、緑の光は更に増して。

「     包み説く母 西の伝承 詩神の住まう 謳う丘     」

わんこ達の傷を癒し、穢れを祓い、屍肉喰らい達を音無く燃やして、瘴気を浄化していく。

「     少女は 翔び発つ 朱き御星 抱いて     」

その後から、小さく爆ぜては生まれる、新しい命の息吹。





     『 ヤ メ ロ   止 め ロ 御 こ ―――――― 』





目の前の、倒れていた白い巨体がぐぐ、と動いた。

紅く濁っていた光彩の色は殆んど金に戻って、ずり、と前足をあたしの方に伸ばす。





「Shit!!アイツ、動けねぇんじゃなかったのかよ!?」

声を荒げて筆頭さんが武器を構える。

「おい、前田の!!」

「あいよ!!」

同時に風来坊が。腹心さんが。虎神を包囲する様に左右に動いて。

小太が、あたしの前に躍り出て、ちゃき、と忍刀を構えた。





ソレでもあたしの口は止まらず。

終盤へ向けて、謡を謡い続ける。





     『 ソ の 謡 ―――――― そノ謡はダめだ、 御子!!』





祓いの光に瘴気を浄化され、癒しの緑に傷を塞がれつつある虎神の、声。

その、綺麗に澄んでいく金の目を見据えながら。

あたしは ただ、謡う。





「     今宵の 語りの 愛し巫女の魂が     」

     『解っているのだろう!!もう謡うな、御子!!今直ぐに止めるんだ!!其れは、其の謡は――――――!!』





虎神が吠える。

腹心さんの隣に立ったねーさんが苦無を構える。

筆頭さんの横に出たわんこが、双槍を手にぐ、と脚に力を込める。

あたしの左右にお館様と軍神が。小太の隣にオカンが。





「     貴方の 胸にも 届きますように     」

     『其れは、お前の命を、削る謡だ――――――!!』





謳の最後のフレーズに被ったのは、悲鳴にも似た、声だった。





光舞う大地。穏やかに降り注ぐ太陽光。謡の余韻を抱いてそよぐ風。

再び雄大に神々しく、4本の足で立ち上がった白い虎の神。

――――――そして。

見開かれた、小太の濃い青い瞳。





「せんせい!?」





ソレが。

あたしがココで見た最後の光景、だった。




 




 




 











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