はらりはらりと桜の花弁が舞う。 朧をまとった月の光の下で、その風景は鮮やかに心に残るほど儚げだ。 あたしはそんな景色をしばらく眺めてから、そっとお城を抜け出した。 |
伝説の忍、懐く、の巻。 ~さてと。本職に戻りますか。~ |
アレから、話はトントン拍子に進んだ。 じじさまは死んだと思ってた小太郎を見て驚いて泣いて喜んで、あたしに 「嵌めおったなお主!!」 と怒鳴って。 ソレから、言う事聞かずに戦場にやってきた小太郎にでっかいカミナリを落とした。 正座で項垂れてる小太郎が可哀想に見えた。何より年寄りの説教は長い。 だからあたしと筆頭さんの2人でじじさま宥めた。 次にみんなの視線を集めたのは鷹神さま。 じじさまとは旧知の仲で相州の土地神やってます、って自己紹介には腹心さんが顔を真っ青にして平伏するイキオイだったし。 どうかじじさまを殺してくれるな、と筆頭さんに頭を下げてじじさまと筆頭さんを慌てふためかせた。 筆頭さんは元々、相州が奥州に下ればソレで良かったらしい。相州の統治はそのままじじさまに任せるつもりだったそうな。 じじさまも、そんな筆頭さんの言葉と、自分の為に頭まで下げてくれた鷹神さまと、孫みたいに可愛がってる小太郎さんの上目づかいに、筆頭さんの傘下に入る事を承諾した。 で。 トントン拍子に話が進んだら、今度はバタバタと慌ただしくなった。 先ず戦が筆頭さんの勝利で終わった事を兵士さん達に伝えなければならなかったし。 今まで通り相州はじじさまに任せる、と言っても、筆頭さんにとって今までの相州の政には口を出したいトコロ満載らしい。 腹心さんの 「あんたの本業って何なんだ!?医者じゃねぇのか!?」 って驚きや。 じじさまの 「お主何故鷹神様に御子などと呼ばれておるんじゃ」 って疑問ナドナドは。 現段階では2の次3の次なのですよ。 そんなこんなで。 鷹神さまは 『少し毒気に当たり過ぎた』 と言い残して森へ帰ってった。 小太郎はアバラ数本折れてるのがじじさまにバレてまた怒られて、静養しろと布団に押し込められた。 筆頭さんと腹心さんとじじさまは、今後の事を話し合う為に重鎮さん達を呼んで座敷に籠もった。 落ち着くまでは相州にいるらしい。 そしてあたしは。 夜も深い丑三つ時。1人戦場跡を闊歩している。 鷹神さまには遊びに来い、って言われたけど。今はそんな気分でもないしヒマもないし。 今後の事を話し合う、ったって、ぶっちゃけソレはあたしには関係のない事だし。 ――――――ソレに、あたしにはあたしの、するべき事がある。 夜の冷たい風の中、混ざるのは鉄錆・・・・・・血の匂い。 鷹神さまが戦地のど真ん中に降り立ってくれたおかげで戦渦は意外にあっさり落ち着いてくれたけど、ソレでも死人が皆無だったワケじゃない。 実際、大勢のケガ人さん達だっていて、ついさっきまでは手当てもしていた。 眺める視界には、折れた矢や刀や槍や、破れた旗や、血がしみ込んで黒く変色した地面や。 野ざらしのまま、転がっている。いくつもの――――――かつて人間だったもの。 「・・・・・・・・・・・・たくさん、死んだ、な」 しにたくない、と。嘆く魂がそこかしこに、いる。 いたいいたい、と苦痛に泣いて。どうしておれが、と恨みを募らせて。 かえらなきゃ、と。もう動かない肉の器にそれでも戻ろうとしてる魂も、いる。 「・・・・・・・・・・・・ココでも、命は軽いの、か」 ――――――泣きそうになった。 あたしだって聖人じゃない。誰かを羨んだり、怒ったり、普通にする。 だけど、だけどこんな・・・・・・こんなにも、『死』が多い、世界を見ると。 「――――――」 どうして今、あんたはあたしの隣にいないの。 「寂しい、」 どうしてこんな時にいてくれないの。 「悲しい、」 泣きたくて泣きたくて仕方ないのに。抱きしめて頭を撫でて背中を叩いて欲しいのに。 「、会いたい」 熱くなる目頭を押さえて俯く。 ――――――と。視界の端で何かが引っ掛かった。 ソレは、這う様に地面に蠢いて・・・・・・・・・・・・否、蹲って何やらやっている。 あたしは目を細めて注意深くソレを観察しようとして・・・・・・即止めた。 かわりにやったのは、大仰な舌打ち。 「――――――早いな、おい」 まあ、ソレで無くてもイロイロ弱ってる上に戦なんてやらかして更に穢れを呼び込んじゃったんだから、仕方ないっちゃー仕方ないんだろうけど。 ぼやきながらも、ポーチからずるりと『舞扇』を2本とも引き摺り出して地面を蹴る。 目指すのは、打ち捨てられた人の死体に歯を立て喰らうソレ――――――屍肉喰い。 死体に憑いて、生命を求める墜ちた魂。もしくは、死にきれず妖にも成り損ねた人のなれの果て。 あたしは、ソレの脇を走りぬけ様に『舞扇』を一閃させた。 一瞬後、ごろん、と落ちるのは、人の頭。 半分以上が腐ったソレを直視する事もせず、ただ前者か、とだけふと思って。 「――――――吼えろ生命を尊ぶ紅蓮の鳥 其の翼に纏う古の炎以て 不浄なる魂 対岸へと誘え」 轟!!と、ソレが喰らい付いてた死体諸共、骨も残らないくらいに焼き尽くす。 ヒマがあれば行く先々で穢れを浄化して澱みを濯いで、エーテル整えて循環させてアーグを活性化させてってしてきたけど。 今までずっと羽州・奥州ばっかだったし。相州来るの今回初めてだし。 ・・・・・・・・・・・・本来の威力の4分の1もないねやっぱ。 はふ、と溜息を吐く・・・・・・あたししばらくはココにいなきゃ、かもなぁ。 筆頭さんは何時までも奥州開けとくワケにはいかないだろうから、相州のゴタゴタが落ち着いたら直ぐ帰るんだろうけど。 ソレまでにここら一帯どーにかなるかな・・・・・・あの人絶対あたしも連れて帰ろうとするだろうし。 なんて考えてたら、がしっと足首掴まれました。 ちろん、と視線を下にやったら・・・・・・うん。解ってたけどやっぱ見るんじゃなかった。 しかもコイツ出来たてホヤホヤだよ刀3本胸に突き刺したままなの見るに今日の戦で死んだ人だよ。 「つかホントに早いなおい」 そんなに穢れてたのかココ。良く鷹神さん降りて来られたね。 なんかズルズルあたしの身体這い上がって上体を起こそうとするそいつの頭をげいんっと蹴って少し離れてやっぱり燃やす。 だけど、けっこー転がってる死体の中にまだ蠢いてるヤツを見つけてげんなりする。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うーわーぁ。5体に1体は確実に屍肉喰い化してるよ。 ゆらゆらと起き上った1体を、取り敢えず動けない様に手足切断して2体目に突進。 ソレからばったばったと動く死体を片っぱしから切って捨ててみるけど・・・・・・切り倒した傍から新しいのがぬぼーっと立ち上がってくる。 「をいこらまてまて」 何この多さ。幾らなんでも死人返り多過ぎ。 「・・・・・・ったく、メンドウな・・・・・・」 だからといってほっておくワケにもいかないんだけど、ね。 妖 (アヤカシ) にすらなれずに墜ちた怪 (モノノケ) は、妖と違って本当に夜しか活動できないけれど。 人を襲う頻度は、妖の比じゃない。 今日1日下手したら貫徹だな、なんて思いながら。 あたしはウゾロウゾロと動くヤツ等に向かって『舞扇』を構えた。 ・・・・・・・・・・・・後でちゃんと消毒してあげるからね、『舞扇』。 |
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