あの後何曲か歌わされて、真夜中と言ってもイイ時間帯に、ようやく宴はお開きとなった。 ソレから約2ヶ月。どーやら筆頭さんの言っていた『歓迎』というのは、恩人に対するお持て成し、じゃなく新しく仲間が増えたぞー!という事だったらしい。 あたしはまだ、奥州にいます。 |
奥州筆頭、企む、の巻。 ~あのー。そろそろ旅に出たいのですがー。~ |
や、それとなーく筆頭さんや腹心さんに切りだそうとしたんだよ?そろそろおいとましますー、って。 でもあの2人、先手を打つみたいに 「ウチの医者共にあんたの医術教えてやってくれ」 って言い出してきてさ。 まあソレくらいならいっか、って思ったのが運のツキ。 1月くらい講習開いてあたしが知る医学薬学をお医者様方に叩き込んでやってたら。 もともと筆頭さんに施した傷の手当がパーペキだった事もあって、あたしは何故か、腕のイイ医者だと思われる様になった。 んで。 勉強熱心だったお医者様方への講習もひと段落着いたから、んじゃ今度こそおいとまをー・・・・・・って思ってたら。 何故かどこぞの忍者が伊達兵の中に紛れ込んだ挙句、夜中に筆頭さんの暗殺を図ろうとしやがった。 ぐぅの音も出ないくらい完膚なきまでに叩き伏せて簀巻きにして腹心さんに引き渡してやったけどね。 けど、ソレがいけなかったらしい。 筆頭さんが腹心さんに、あたしが筆頭さん抱えて敵陣突っ切った事を面白可笑しく話してた事もあって、あたしがかなり腕も立つ武人だっていう噂も立ち始めた。 だけどくじけず3度目の正直!今度こそおいとまを!・・・・・・なんて思ってたら。 ・・・・・・・・・・・・なにゆえ起こる農民の一揆。 そりゃ解らないでもないけどね?戦で荒れた土地を耕して折角作物作っても、殆んどを年貢として持ってかれる農民さん達の苦労は。 しかも奥州は、土地柄が厳しい。冬が長くて作物の育つ時期が短い。 ――――――だけど、だからって筆頭さんを血祭りに上げようとするのは、間違ってるよね。 だって筆頭さんは、仲間想いのイイ人だ。 少しでも民の暮らしが豊かになる様に。少しでも早く戦乱が終わる様に――――――自分が、終わらせる、って。そんな考えで刀を握った人だ。 あたしみたいな (彼等にとっては) ならず者を、命の恩人ってだけで何の詮索もせずに近くに置く、そんな人だ。 ソレに、今筆頭さんが死んじゃったら、奥州の未来は目も当てられない。 頭を失った国なんて、周りの国の格好の餌食だ。蹂躙されて骨までしゃぶられて、ポイされて終わりだ。 だけど、筆頭さんがいるから周囲の国はむやみやたらと奥州に攻め込まない。筆頭さんの存在が、この国を守る防波堤だ。 ソレがなくなったら。この戦乱の世の中。この国は即効で終わりだ。 そんな事を、まだまだ寒い冬空の下で。 お城を取り囲んだ農民さん達の目の前で首謀者 (なんといつきちゃんだった!!) をひっ捕まえて雪の上に正座させてコンコンと説教みたく言ってやった。 駆け付けてきた筆頭さんも腹心さんもリィゼントの兵隊さん達も、その様子にみんな呆気にとられてた。 「・・・・・・だけど、だけどオラ達だって苦しいだ!!冬も越せずに飢えて死ぬモンだっているんだ!!」 うん。そんないつきちゃんの言い分も理解は出来るんだよ? だから言ってやった。曰く、 「だったら、太公望の兵法に倣えば良いんだ」 って。 「太公望・・・・・・?」 「中国、周の軍師だったという、あの?」 「そう。要は、年貢を減らして飢え死にしなければ良いんだろ?なら、兵士にも地を耕せさせれば良い」 「「「「なっっ!?」」」」 「鍬と刀は重みが似てる。鍬で畑を耕す動作は、素振りと殆んど変わらない。訓練になる。作物も出来る。太公望の考え出した兵法の1つだ・・・・・・一石二鳥だろ?」 絶句した腹心さん含めるその場の人達の前で、あたしは筆頭さんを振り返る。 筆頭さんは驚いた様にあたしを見詰めてたけど、しばらくしたらニッと口元に笑みを乗せた。 「OK!!の意見を採用してやる!!小十郎、野郎共に伝令を!!今後訓練に畑の耕しを取り入れるってな!!」 「なっ、政宗様、正気ですか!?」 「Ah?だったら他に年貢を減らす何か良い手があんのかよ?」 「ぐっ、そ、それは・・・・・・」 「むっ、無理だ!!おさむらいさんがイキナリ鍬持つなんて、畑仕事甘く見んじゃねーべ!!」 「No problem!!お前等が何人か残って指導してくれりゃ良い」 コレで、あたし発案腹心さん&いつきちゃんVS筆頭さんのバトルは、筆頭さんの勝利で終わった。 あたしも、やっと今度こそおいとまができる!!思ってたんだけど。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんでまだココにいるんだろー? 「右目、少し良いかな」 「悪い。今少し手ぇ離せねぇんだ」 「・・・・・・なら、奥州筆頭は?」 「政宗様は俺よりもっと手が離せねぇ」 なんか忙しいのか、筆頭さんも腹心さんもなかなか捕まらない日が続き。 「先生、見て下さい。先生が話してた通りの場所に、こんなに薬草が!」 「さんっ、稽古を付けて下せぇ!!」 仕方なしにお城の中を歩いてたら、ひっきりなしにお声が掛かって。 「おや、先生。珍しいですね、今日はお1人ですか?」 「様、お団子お召し上がりになってって下さいな。出来たてですよ」 「先生に似合いそうな反物が入ったんです。見ていかれませんか?」 城下に繰り出せば、これまた色んなトコで声を掛けられる。 つまり。 招待してくれた筆頭さんに、そろそろ出てくわ今までありがとー、なんて言いたくても、本人捕まえられないから言えず。 何時でもドコでもあたしの周りにはあたし以外の人がいて、置手紙残してひっそりこっそり出て行こうにも出来ない現状。 ・・・・・・・・・・・・土地浄化の旅もあるしも探さなきゃいけないのになー。 『みこさま、おつかれですか?』 「――――――や、大丈夫」 心配そうに見上げてきた狼さんの頭をひと撫で。 そんなあたし達の後ろから、タッタッタッ、と駆けてくる音がする。 「様ーーーーっっ!!」 そして、どしぃん!!てな感じで背中から腰にタックルされて、あたしはまたですか、と小さく息を吐いた。 「いつき」 「女中さんにお饅頭もらっただ!一緒に食べよう!!」 振り返って見下ろせば、満面の笑みを向けるいつきちゃんの姿。 そんな姿に、ああ今日も1人の時間は作れないのね、と内心で嘆息吐きながら。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん。そだな」 小さく苦笑して、いつきちゃんの頭をぽんぽんと撫でた。 |
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