夕食時になって、新しく顔を合わせたのは二男と五男だった。
2人とも、あたしとを見るなりぽかん、とした顔になる。
・・・・・・・・・・・・うん。何を言いたいのかは良く解る。
解るけど、文句ならチミタチのおかーさまに仰いね?
あたし達に着せ替え人形よろしく服とっかえひっかえさせて、こんなんにしちゃったのはキキョウさんなんだから。
しかもホントにキキョウさんあたしからカラコン取り上げたんだよ。
・・・・・・あのカラコン特注だからけっこー高かったのに。ぐすん。
新しい動きに呑まれた日。
「ほうほう。さっきとはまた違った趣じゃのう」
「おほほほ。苦労致しましたわ、何を着せても似合うのですもの」
立派なおヒゲを撫でながら満足そうに頷くおじーさまに、キキョウさんは誇らしげです。
とゆーか、苦労なんてしてませんでしたよねキキョウさんもうすっごい楽しんであたし達を飾り立てましたよね。
言いたいけど言えないなんていう不完全燃焼物を抱えて、あたしは今の自分達の服装を見る。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・溜息が出そうだ。
襟の高いニットソーはすっごいイイ生地使ってるなぁってシロウト目でも解る触り心地だし。
ピアスやらネックレスやら腕輪やら指輪やら、アクセサリーは全部純金でしかもサファイア付いてるし。
ブーツもベルトもズボンも長さ踝までのすっごいスリット入ったスマートなデザインのコートも、高級レザーだし。
更には、左肩にサファイアの眼をした虎の金細工が付いてるし。
しかもトドメとばかりに、背中まであるあたしの髪は綺麗に結わえられて、たくさんの宝石がくっついた金のかんざし挿されたし。
付け加えるなら、白猫だからって理由だけで上から下まで真っ白さ。
そしての方はといえば。
ブーツの型が違うとかコートの丈は膝までだとか。
あたしみたいに髪長くないからかんざしは挿してないとか、アクセントは白金とルビィで統一されてるとか。
やっぱり黒猫だからって理由で上から下まで真っ黒だとか、ちょこちょこ相違はあるけど。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたしら今、総額一体幾ら身に着けてるんだよ?
「・・・・・・・・・・・・なあおやじ、何処の国の要人を預かってきたんだ?」
「・・・・・・・・・・・・ソレ以前に、何時からうちは護衛まで受ける様になったの?」
いえいえ。ソレはでっかい感違いですよミルキくんカルトちゃん。
・・・・・・あ。シルバさんがウケてる。
「くっくっく・・・・・・いや、こいつらぁ何でも屋だ。ミルキは知ってるだろう、『路地裏の猫』」
シルバさんが言ったら、ミルキくんは何故かちっちゃい目を丸くした。
「って、あの、賞金首には珍しい、変な賞金の掛けられ方してるヤツ?」
・・・・・・・・・・・・そーゆー認識のされ方ですか、あたし達。
「ああ、ソレだ・・・・・・白猫、黒猫。紹介しよう。ミルキとカルト。俺の息子達だ」
出そうになった溜息をどーにかこーにか止めながら小さく頭を下げたら、くい、とコートの裾を引っ張られた。
つつつ、と視線を下げてみると。
「ねえ、名前は?」
「え」
「名前、なんて言うの?」
・・・・・・うん。首を傾げながら上目使いで聞いて来ないでくれますかカルトちゃん。
中身アレで男の子だって解ってても、振袖でソレはカワイイから。
てかさっきシルバさん言ったじゃん。ちゃんと聞いてなかったの?
「・・・・・・俺が白猫で、こっちが・・・・・・」
「違う。ホントの名前は?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。どぉしよぉ。
本名は大事だと思うんだよ。名は体を現す、って言葉通り、さ。本名イコールその人そのものだと思うんだよ。
逆に、今あたし達が使ってる白猫黒猫ってのは、あたし達が作り出した現実には存在しない人物だ。
何かあってもすぐ消せる。何が起こってもしらばっくれられる。
だから、今あたし達は白猫黒猫って名乗ってる、のに。
「ねえ、教えてよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どー言ったら諦めてくれるかなこの子は?
しかも、シルバさんもキキョウさんもミルキくんもゼノおじーさまも、あたしがどう答えるか興味津津な感じで見てるし。
困ったなぁ、と思ってると、がすいっとカルトちゃんの前に膝を着いた。
そして、一体何をしでかす気なのかと思ったら。
「俺はって名前でね。白猫は、本当はっていう名前なんだ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・言いやがったよ、ホントにこのやろう。
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