・・・・・・あー。なんか頭の下がごつごつする・・・・・・
や、頭の下だけじゃないわ。もー背中から足から腕から、下にある筈の敷布団が、硬い。
・・・・・・・・・・・・って。
「!?!?」
がばっ!!
思いっきり勢い良く起き上がった。
んで、周りの景色にしばし呆然。
前後左右上から下まで岩、いわ、イワ。
ちっちゃく出来上がったクレーターに何かの残骸。
「・・・・・・・・・・・・夢じゃ、なかった・・・・・・・・・・・・」
そーだよ夢オチ期待してたんだよ悪いか!?
でも夢じゃない、と判って茫然自失。
どーすりゃ良いんだコレからあたし。
ふ、と。顔を上げたら少し遠くの方から木漏れ日揺れる日の光。
と、取り合えずこっから出よう。
アクマの残骸と一緒に寝起きなんでヤだ。
のそのそ起き上がってぼてぼて光の差し込む方へ。
そしたら見つけましたぽっかりと外に繋がる穴。
大人1人抜けられるくらいの、穴だ。
雑草やら木の枝やら多い被さってて、何か出るのにひと苦労しそう。
・・・・・・ええい。突っ込め。
ガサガサ葉っぱを掻き分けベキベキ枝折って、ずん、と一歩。ずずんと二歩。
ぺち、と頬に枝が当たって、目を顰めた瞬間、ソレが見えた。
深く強く大地に根を張る森の緑。
そして、青。
抜けるくらい、綺麗な青天。
「・・・・・・う、わ・・・・・・」
何か、何かこう。ぐっと身体の奥からせり上がってきた。
ぎゅっと閉じた瞼の裏が熱い。
目を、開ける。
視界に映ったのは、生命力溢れる森と、ドコまでも高い空。
ぐ、と手を組んで腕を伸ばして、伸びをした。
サラリと撫でてくれる様な風が気持ち良い。
「・・・・・・生きてんだ、あたし・・・・・・」
今更ながらに、実感を持ててきたっつーか何つーか。
「・・・・・・って、あれ?」
ソコで、はたと気付く。
あたし、けっこー怪我してませんでしたっけ?
吐血しちゃうくらい、痛め付けられてませんでしたっけ?
そうして見下ろした自分の身体。
あんだけ蹴られて踏まれて、砲弾まで浴びちゃって。
なのにドコにも怪我が、ない。
・・・・・・・・・・・・何で。
生命削って治癒能力高めてる神田じゃあるまいしっっ。
なのにどーして怪我がない上痛みもない!?
着てる服なんてボロボロなのに!!
ん?ボロボロ?ぼろぼ・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何、コレ。
ぱた。胸を軽く叩いてみた。
ぱたぱた、ぱた。今度は両手で。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何で、ナイの。
あの、豊満とは言い難いがソレでもしっかりきっぱりその存在を主張していたものが!!
毎日毎日、コレでもか!!ってなくらい寄せて上げて!!
どーにかこーにか形にしていたBに途轍もなく近いCカップが!!
どーして洗濯板もまっつぁおなまっ平らになってんの!?!?
・・・・・・は、ははは。
ゆ、夢だ。やっぱりコレは夢なんだ。
そ、そりゃね。良くね。
某ゲーム主人公とか某マンガ主人公とか押し倒してぇとか日常茶飯事に妄想してたけど!!
ソレで女捨てて男になる!!ってな決意なんて一度も持った事ねーよ!!
「うがーーーーっっ!!」
人目も憚らず、ってもココには人目なんてないけど、叫んでしゃがみ込んで頭抱えてみた。
さっきより近くなった自分のズタボロになったTシャツの下の胸は、やっぱりまっ平ら。
そんでもってがっくり項垂れて、そろそろと股間に手を伸ばしてみる。
・・・・・・どーかありませんよーに。
ぎゅ。
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あるよ・・・・・・マジにあったよ男の勲章。
カミサマ。あたしはアンタに愛されてないんですか。
事故ったと思って意識飛ばして、目が覚めたら異世界で、痛い思いして殺されそうになって?
挙句の果てには拠りにも拠って性転換!?!?
自慢じゃないけどあたし今まで警察のお世話になる様な事した事ないんだよ!?
免許なんてゴールドさ!!
イキナリんなトコに放り出したせめてものお詫びでカミサマが怪我治してくれたのかなってちょっとだけ思ってたらっ。
・・・・・・はっ。そうだ怪我の件もあるんだよ。
うあーもう考える事も不満も不安もいっぱいいっぱいぃー。
しかも怒りの矛先が目の前にいないから悶々溜まるぅー。
あーでもでも怪我の方はなんとなく予感が。
コレ、もしかしたらイノセンスの能力かも知れん。
・・・・・・ちょっと試してみよう。
ぐるり、と辺りを見回す。
ちょーどイイ感じにナイフみたいに尖った石があった。
ソレを拾って、すーはーすーはー、深呼吸2回。
「・・・・・・うし。」
あたしは尖った石の先端を、右の掌目掛けて振り下ろした。
「〜〜〜〜っっ!!」
痛いっす!!マジで痛いっすよ奥さん!!(だから誰)
思い切り良過ぎてグサッといった!!
ああもう血ぃダラダラっ。勿体無い!!その上痛い!!
「〜〜〜〜ぃっ、イノセンス発動!!」
ちょっと涙声で小さく叫んでみたら、耳の奥でヴン、と小さな羽虫の羽根の様な音。
昨日の夜は余裕全くナッシングだったけど、コレが発動の感覚か。
じくじくじく。痛む掌を広げて見た。
指は硬くならない。爪も、伸びない。
じくじく・・・・・・じく。
・・・・・・あ。痛み引いてきた。
・・・・・・・・・・・・うーあーしかも血ぃ止まったよ。
ぐい、とズボンで手を拭ってみたら。
ソコにはパソコンの中のデータみたいに増殖していく・・・・・・コレって細胞?
あ。完全に傷塞がった。
左手を見る。
さっきの尖った石がソコにはある。
あたしはぎゅっ!と目を瞑って、もっかいその石を振り上げた。
がきんっ!!
うわ。歯の裏がむず痒くなる様なイヤな音。
そろ〜り。目を開けてみたら。
・・・・・・ナゼ砕けてる石のクセに。
ぺいっ、と持ってた石を放り投げて、くるっと辺り探して似たり寄ったりな石を拾う。
「えいっ」
がきんっ。
ぽいっ。
「おりゃっ」
がきんっ。
ぽいっ。
「たあっ」
がきんっ。
・・・・・・うーん。
持った石の感触から、あたしが触れたものの硬度が落ちる、ってワケじゃないんだろうな。
むしろ、石よりあたしの手が硬くなった、って言った方が良いか。
手だけじゃなくて身体全部硬くなってんだろう。ソレはもう皮膚から内臓から血から何から何まで。
でなけりゃあんなに血の砲弾弾き返してないって。
・・・・・・肉体の硬質化。
コレがあたしのイノセンス能力、か?
血の止まりが速いのも傷が塞がるのも、爪があんなになるのもソレの延長線上だろう。
ソレにしても、見た目変わらんのに硬くなるってどーよあたしの身体。
むーん。と考える。と言うより、落ち込む。
・・・・・・だってイノセンス能力判ったってなー。
どーしてイキナリ性転換したのか、とか。
どーして異世界に飛ばされたのとか帰る方法あるのかとか。
肝心要なトコは判らないんだもんなー。
きゅるるるるるるるるるるっっ。
・・・・・・・・・・・・うーわー、脱力。
なにゆえココで鳴るかねあたしの腹の虫。
しかも自覚したらホントに腹減ってきたじゃないかコンチクショウ。
多分、あたしは寄生型だから。
アレンみたくがっつり食うんだろうなー。
ま。腹が減っては戦は出来ぬ、と申しますし。
判らんもんは何時まで悩んでたって判らんままだ。
人生前向きが一番だよ。
よっ、と立ち上がって伸びをもう1回。
取り合えず食えるモン探そう。
つか、その辺の木の実とか食って毒に当たったらヤだから人の居るトコ探そう。
と、一歩踏み出したトコロで。
「・・・・・・あ。」
・・・・・・街とか村とか見つけても、金持ってないじゃんよあたし。
しかもこの恰好。
不審人物以前に変態さんだよコレじゃ。
「早速ピンチだどうするあたし」
再びしゃがみ込んで頭抱えてブツブツブツ。
こーなったら、街か村見つけて夜中にこっそり泥棒するか?
それとも強盗?
・・・・・・・・・・・・生きてく為には犯罪侵さなきゃならんのかあたし。
だっは〜。と漏れるでっかい溜息。
見上げた空は真っ青で。
ヤンキー座りで項垂れる。
――――――と。
視界の端に、何かが引っ掛かった。
・・・・・・ん?んん??
何だろ、アレ。
ずりずりと近付いてみる。
なんか茶色っぽい塊。岩、じゃない。そんな硬そうな感じじゃない。
ちょい、と摘んで、持ち上げて。
でろん。
「〜〜〜〜〜〜っっ!?!?!?」
思わずぺいしてずざざざっっ!!と引いた。
だ、だ、だだだだってここここれっっ!!
か、か、かかか皮じゃん!!人間の!!
うっわきっと昨日壊した丸い物体のヤツだよ!!何でこんなトコにあるんだよ!?
しかも皮のクセに上等そうなコートなんか着やがってあたしはズタボロなのに!!
・・・・・・・・・・・・ん・・・・・・・・・・・・?
・・・・・・・・・・・・コート・・・・・・・・・・・・?
あたしはそろ〜りそろりとソレに近付いた。
ズボン穿いてるシャツも着てるブーツもだ。
蝉とか蝶の脱皮が脳裏に過ったよ今。
しかも皮の下にはご丁寧に、小さいけど旅行用のトランクケース。
引っ張り出して開けてみれば、数着の着替えと、多分コレは、財布。うわお、お札ぎっしり。
・・・・・・・・・・・・アクマのクセに旅行中だったのか。
ソレとも、旅行という名目でイノセンスを探してココに辿り着いたのか。
まあ、細かい事はどうでも良い。
例えアクマが着ていたモノでも、背に腹は変えられん。
・・・・・・ココにこんなんがあるなんて、何かの作為を感じるが。
有り難く使わせて頂きましょう?
直に着るのはカンベンだから、ズタボロの服の上、って事になるけど。
ばさっとシャツを羽織ってズボンを穿く。
・・・・・・ちとデカイ。
でも文句は言えん。
皮からコート剥ぎ取って、袖を通し着てみた。
・・・・・・我慢だ我慢。
街か村に着いたら速攻新しいの買って、一日風呂漬けとかできるんだ。
この世界の物品価格は判らんが、トランクの底には財布とは別に封筒に入った札束あるし。
コレで駄目なら働きゃ良い。
ぐ、と靴の感触確かめて、コートのボタンを留める。
さあ顔を上げろ一歩踏み出せ!!
いざ行かん見知らぬ土地へ!!
ぐきゅるるるるるるっっ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・お腹も減ったしな。
再び鳴った腹の虫に脱力しながらも。
あたしは、うし!!と気合を入れて今度こそ本当に一歩を踏み出した。
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