何か変わった事は、と聞かれ。は自ら用意した紅茶を一口啜った。
「特には。・・・・・・ああ、いや。ガイ情報でさ、なんか最近勧誘の度合いが増したって」
「ガイの勧誘が?まだ諦めてなかったのか」
「ん、みたいだね。・・・・・・まあ、まだ『目的』果たしてないからって、保留にしてるらしいんだけど」
ソレからコレ、ガイから預かってきた、と懐から紙袋を取り出し、はアッシュに差し出す。
受け取ったアッシュが封を開け袋を逆さにしてみれば、ころん、と出てきたのは片方だけの赤いピアス。
「・・・・・・何だ、此れは」
「お守りだってさ。ルビィは別名炎石とも言うから、『焔』を護ってくれるだろう、て」
「・・・・・・・・・・・・アイツは・・・・・・・・・・・・相も変わらず・・・・・・・・・・・・」
「でも、嬉しいっしょ?因みにもう片方はあの子に渡すって。お揃いだよ、良かったねアッシュ」
「なっ、・・・・・・っ、・・・・・・っ、ぅうううるせぇっっ」
に、と笑って言えば、かぁっ、と一瞬で顔を赤くした彼はふい、とそっぽを向く。
しかし受け取ったピアスを放り出しもせず、大切そうに再び袋へ仕舞う処を見ると、まんざらでもなさそうだ。
そんな年若い上司を柔らかい微笑で眺めながら、は再び紅茶で咽喉を潤し。
「で。コッチはどうなの」
「ああ。コッチも相変わらずだ。ヴァンが毎度お馴染みの嫌味を言いに来るくらいには」
「・・・・・・嫌味?また一体何をあの御仁は」
「アイツがお前にすっげえ懐いてて、もしかしたらお前もアイツに『奪われる』かもしれねぇ、ってな」
「・・・・・・・・・・・・アホらし」
「はっ、全くだ」
思わず吐いた悪態に、アッシュもまた同意する。
釣った魚に餌は与えぬ性分なのか。一度でも己が元に惹き込んだ者は、もう自分以外見ないと思って疑いもしないのか。
知略に長ける彼の武人は、しかし心情を推量するには、些か甘いと、は考える。
だって、彼は気付いていない。まだ、気付いていないのだ。自分達の事に。
確かに、気付かれない様に、と隠蔽し続けてきたのは達で。其の為に裏操作を行ってきたのも自身であるのだが。
人の機微を敏感に察知するのは、この深紅の髪を黒に染めた少年の方が、上だ。
だって。
「ところで」
「何すかアッシュ団長」
「本当に、何も変わった事は無かったんだな?」
生命萌える、緑の眼光がを射抜く。
其の声は、決して大きくは無いのに妙に室内に良く響いて。
こういう時、辛いな、とは思う。
変わった事なら、ある。
否、此れから変わる事柄がある事を、は知っている。
けれど、言わない。言えないし、言わないと約束した事でもあった。
アッシュはにとって、大切な大切な弟分だ。
始めは攫う様に連れ出して、其れから七年近く、面倒を見てきた、子供だ。
けれど、今は遠き異国の地で、籠の中の鳥の様に自由を奪われた子供も。
にとっては大切な大切な弟分だ。
どちらも、大切で。
両方の、支えで在りたくて。
けれど、双方の立ち位置、二つの想い願いの相違から、両立させるのは、余りに困難。
だから、こういう時。正直、辛いな、と思う。
が知っていて、アッシュが知らない事。
もう一人の弟分から隠していて欲しい、と言われ。言わない、と。約束した、事。
其れだけじゃない。其れ以外にも、言わない、と決めた事だって、あって。
そんなものの、ある事が。辛いな、と。純粋にそう思うのだ。
「・・・・・・俺ってそんなに信用無いのかね」
「そんな事はっ!」
吐息混じりに呟けば、間髪置かずにアッシュが、声を上げ。
其の、慌てぶりに。は、くす、と笑みを佩いた。
「冗談だ。・・・・・・ちゃんと、判ってる」
どれだけ、アッシュがを信頼しているか。
どれだけ、アッシュがに好意を寄せているか。
ちゃんと、判っているから。
「不安なんて感じる必要無い。俺は何時でも、アッシュの味方だ」
――――――例え、言えない事を抱えていても。
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