重層な屋敷と壁の中。ぽつん、とひとつだけ。

けれど何処からでも目が届く様――――――監視、出来る様に、作られた部屋で。

光量を落とした机の上。ぱたり、と日記を閉じる。

ふ、と顔を上げれば。窓の外から虫の鳴き声。

隔離された空間の中でも、夜にはちゃんとこういう音が聞こえてくるものなんだな、とルークは思う。

そして其の歌で。肩に入れていた力を、抜くのだ。漸く。





今日も、一日が。平坦に。代わり映え無く、終えた。まるで籠の中の鳥の様に。

何時まで、続くのだろう、と思う。こんな日が、何時まで。

納得した上での事だったが、其れでも、矢張り、辛いものが在る。





無意識に、ひとつ、溜息。

其れから、苦笑。考えても仕方無い事だ、と。

かたん。椅子から立ち上がって、寝台へ。

ばふり、と思い切り飛び込めば、上質の柔らかいマットが、身体を抱き止める。





ごそり、と動いて仰向けに。明日は何をしよう、と考える。

と云っても、勉強は余り好きでは無いし、外には出られない。

唯一の楽しみは、剣技の訓練なのだが――――――





こつん。

乾いた、音がした。何の音か、と上体を起こす。





こつん。

ふ、と顔を向けた窓。薄いレェスのカァテンの向こう。青く白く光る、欠けた月。





こつん。

窓に、何かが当たって落ちた。





こつん。

良く見れば、小さな小さな石だった。





こつん。

五回目。一定間隔で聞こえていた音が、途絶える。

思わず、飛び上がった。勢いで窓へと駆け寄り、大きく開け放つ。

途端、ふわりとカァテンが風を孕んで浮き、虫の音が大きくなる。

そして、ルークの顔には満面の笑み。





「――――――!」





叫びそうになった声音を抑え、けれども喜色は損なわずに。

呼べば、直射日光を遮る為に植えられた、木の陰から。

夜に生きる精霊の如き、青年、ひとり。





白い象牙の肌に、漆黒の髪が良く映える。

左の眼帯は黒地に銀の縁をあしらえて。背後の欠けた月に似た、銀に近い青い瞳の隻眼の青年だ。

ルークが、初めて美しい、と思い。今尚、此れ以上に美しいものは無いだろう、と思う、人。





ルークは、窓枠から上体を折り、腕を伸ばす。落ちても構わない、と云う様に。

其の様に、青年――――――はふあり、と柔い微笑みをルークに向け。

音も立てず窓際に近付けば。ルークは待ち焦がれた、と云う様にに抱き付いた。




 




 




 




 




 










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