俺は再び、今度は口をあんぐり開けてるスタッフさん達の方へぽてぽて歩いて。
やっぱりちゃきーん!!と構えたのはチョーク。
「・・・・・・・・・・・・。今度は何をするんだ」
「いくら何でもココでまたアリ地獄作ったら、ソコの機材が砂に埋もれっちまうよ ちゃん」
やっぱし2度目とゆー事もあってか、ザックスとサー・リードは立ち直り早い。
俺の後ろでむずかしそーな顔をしてる。
「いやコレはちょっと場の強化と座標の安定を」
あう。変な顔された。まあ思いっきし説明端折ったからアタリマエ?
カツカツ、と。でっかく十の字描いて、四角くなる様にルーン文字を描く。
更にソレをルーン文字で丸く囲んで。
カッ、と最後の一文字を描き終えると、俺はそのまま陣になったソレの真ん中に立った。
第二準備段階、終了。
さて、と。
やりますか?
「サー・セフィロス」
『何だ』
「さっき出来たあのアリ地獄のど真ん中に突っ込んで下さい。」
――――――をや。返事がないよ。さみしいなぁ。
『・・・・・・・・・・・・本気か、?』
「・・・・・・・・・・・・まじですか、ちゃん?」
何を言ってんのさセフィもザックスも。
「おおマジです。」
「・・・・・・をいをい。ちょっと待てちょっと待て。」
「はい何でしょうサー・レオン。」
「アレどー見てもモノホンのアリ地獄だろ!?」
「突っ込んだら沈むだろ!?」
うん。良いツッコミですな。サー・サリカもサー・ガイルも。
「沈みますね。確実に」
「だっだら・・・・・・!!」
「でも沈むのは車だけですから」
さらり、と言った俺の声に。
言い掛けた言葉をぐっと呑んだサー達の顔が、見物だった。
そんだけ、俺の表情ってゆーか背負ったオーラってゆーかが怖く見えるらしい。
『・・・・・・・・・・・・モノは試し、だったよな?』
「うん。でもクラ俺失敗するつもりは更々ないよ?」
『当然だ・・・・・・突っ込めば良いんだな?』
「はい。お願いできますかサー・セフィロス。後は俺が何とかしますんで。衝撃にだけ、気を付けて下さい」
『了解した』
アリ地獄見据えながらでっかく言ったら、苦笑混じりのセフィの返事が返って来て。
視界の端で、サー・ガイルが俺に詰め寄ろうとしたのが見えたけど。
ソレを腕で制したのは。
「っ、おい、ザックス・・・・・・!」
「ちゃんの邪魔すんな」
「だけどなぁ!」
「にーさんがちゃんに任した。だから大丈夫なんだよ」
・・・・・・・・・・・・なんかすっごい、面映いデス。気恥ずかしいデス。
クラはともかく、俺の要求にアッサリ承諾したセフィも。きっぱりはっきり言い切るザックスも。
もー俺ん事なんて心の底から信頼しきっちゃってるよ当然でしょーが、みたいな。
「・・・・・・良いのかソレで・・・・・・」
「うんだってちゃんだから」
・・・・・・・・・・・・後で人知れず身悶えよう。うん。
取り合えず今はコッチに集中だ!
ぎゅるん!!とタイヤがすごい音を立てて、車が方向転換した。
同時に、俺は残っていたピアスをさっき噛み切った指で摘みながら、ソイツを空に捧げる様に掌の上に乗せる。
「あらゆる存在に安定を与える者へ。願うは時(とき)と空(そら)の開放。白き乙女の爪弾く琴線の音にも似た我が言の葉に」
セフィの運転する車は、そのまま真っ直ぐ、真っ直ぐアリ地獄へと向かって。
距離は――――――およそ300メートル。
「聞き届けろ次元の門番。対成す玉の間に路を繋ぎ。この腕が抱く風の休む場所へ」
残り、200・・・・・・100。
秒読み、開始。
「宝玉の御印を持つ、絢爛にして静謐なる金糸。其の横に在る、豪奢にして沈静なる銀糸。響く音よりも疾く奔る、煌く光の粒子に変えて」
3・・・2・・・1――――――今!!
「偉大なるかな魔術の司の、力に拠りて招き迎えよ!!」
目映いくらいに発光した足元の陣。
その場に居た全員の視界を奪う。
同時に、どしゃあっっ!!と砂巻き上げて頭から突っ込む様に車が落ちる、音がして。
「うぎょえっっ!?!?」
「つっっ!?」
「うわっっ!?!?」
ザックスのカエルの潰れたような声。
――――――と。2人分の悲鳴と、ずどん!!と落ちる、音。
音源へと視線をやれば。
魔法発動のリーチーがすっかりナリを顰めた陣の向こう。
地べたに伸びたザックスの上、落ちて来たセフィが、そのまた上から降って来たクラを受け止めていた。
「さっ、ささささー・せふぃろす!?」
「え!?ちょ・・・えぇえ!?!?」
イキナリ沸いて出てきたみたいなセフィとクラに、サー・ガイルとサー・サリカがパニック状態。
俺は横目で、グッと拳を作った。
「・・・・・・・・・・・・よっし失敗だけど成功!」
「ちょっと待て!!失敗だけど成功ってナニ!?」
ソレはですねサー・レオン。
「着地地点ちょっとずれただけですよあっはっは」
「うわーーーーっ何が何だかワケ判んねーけど無事かザックスーーーーっっ!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぶ、無事じゃねー・・・・・・・・・・・・」
いやいや。ザックス打たれ強さだけはあるから大丈夫だって。
兎にも角にも。
残るは後始末のみ。
「閉じろ顎(あぎと)!!呑み込む全てを地中へと抱き!!希むは嘗ての石の大地!!」
空かさず指で空中にルーン文字を奔らせれば。
車を飲み込んだアリ地獄を、囲う様にざわりと動くエレメンタルの気配。
そして、再び白く目映く発光し、2度目のリーチーが展開した。
息を潜めて待っていれば、やがてアリ地獄を包んでいた発光は徐々に小さくなっていき。
最後には、何事も無かった様に、ただの白い線と文字に戻る。
作ったハズのアリ地獄すら、キレイさっぱりだ。
「・・・・・・・・・・・・な、なんだぁ???」
呆けた様なサー・ガイルの声。
他の人達も、今起きた出来事にぽかんと口を開けている。
その、一瞬後だった。
「う、わ!?」
ずずん!!と地面が揺れて、皆が思わずバランスを崩した。
ザックスは、立ち上がりかけたセフィの下敷きだし。
俺なんて、尻もちついちゃいましたよ。
見ればさっきまでアリ地獄が展開してた場所、なんかちっちゃな火山みたいになってる。
煙上がってるよ、煙。
「・・・・・・やっぱり、仕掛けられてたんだな、爆弾」
「・・・・・・そーみたいだね」
トコトコとやって来たクラに、相槌ひとつ。
ソレから、2人揃ってはふぅ、と溜息吐き。
「・・・・・・で、今日のアレは一体何という魔術なんだ、?」
およ。やってきたと思ったら初っ端からソレですかセフィ。
「あー・・・・・・空間転移、です。ただ正式のとはかなり違いま」
「ちゃん大丈夫か!?」
・・・・・・・・・・・・来た。騒がしいのが。ホント鉄砲玉みたく。
思わず説明途中で切っちゃったじゃないか。
「意識は!?眩暈は!?動悸息切れは!?」
「いいいいいやややや。だだだだだいじょおおおおぶで、です、ですかかから」
そんな、寝たら死ぬぞ!!ってなイキオイで身体揺さぶらないで〜。
「ホントか!?ホンットーに大丈夫なんだな!?」
「ははははいいいい。だだだだか、だから、ややややめててててくださささ」
あう。頭ぐぁんぐぁんしてきた。
「貴様は少し落ち着けザックス」
げいん!!
「あだっ!?!?」
・・・・・・うーわー。今すっごいイイ音したよ。さすがはセフィ。ゲンコひとつで沈黙させるなんて。
「大丈夫か、」
「ええ、何とか・・・・・・・でも」
言いながら、すい、と差し出してきたクラの手に、手を乗せて。
最後に付け足した一言に、眉を顰めたクラ達へ向かいへらりとした苦笑を浮かべる。
そして。
「おなかすきました。」
続けた一言は、クラとセフィとザックスの顔を引き攣らせるのに、充分以上の効力を発揮したのだった。まる。
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