Ver.Gail





「・・・・・・あれ?」

「どしたー、ガイル?」





 ふ、と止まった俺の歩みに、気付いたレオンもまた、止まる。

 俺は其れに返事を返すでもなく、目に留まった相手の方へ足を向けた。



 そして、短く声を掛ければ。俺に気付いた相手は、小さな会釈を寄越す。





 ――――――ずっと思っていた事だけど、改めてコイツ見ると、本当に人形みたいだ。

 片割のクラウド・ストライフや、上司のセフィロスとかザックスの傍じゃ、其れなりに感情が見え隠れするけど。

 一人の時のは、本当に。人形みたいだ。





 ――――――・・・・・・・・・・・・って、ん?

「一人なのか?」

「はい」

 返って来たのは抑揚の無い声。





 珍しい。

 彼が執務室の外にいる時は、何時も誰かしら傍にいるのに。

 そう、例えば・・・・・・





「ストライフは如何したんだ?」

「第3事務室に書類を提出しに行っております」

「そっか」





 そう言うの腕にも、結構な束の書類が抱えられてる。

 多分、仕事に追われているんだろうな。

 何時もは執務室から出ない筈のコイツが、一人で書類を届けに行かなくちゃならない位。

 ・・・・・・そりゃそうか。

 何せ、半月近く、ソルジャー統括部の機能が、ほっとんど停止してたんだから。





 この下士官の上司が。事在る毎にサボって、己の下士官達の元へエスケープして下さったお陰で。





 其の事実を聞いた時は、思わず自分の耳を疑ったもんだ。

 ザックスは兎も角、あのセフィロスさんまで。

 まさか其処までコイツ等の事を大事にしているとは、思ってもみなかった。

 不幸中の幸いは、機能停止の間に此れと云った大きな事件や問題が発生しなかった事、か?





「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」





 ・・・・・・う。やばい。

 こっちから引き止めたっていうのに、会話が続かない。

 黒硝子みたいな目が、ホンットにただ硝子みたいに映ったものを映し返すだけ、って感じで。





「――――――なー、ガイル」

 後ろにいたレオンが、くいくいと俺の服の裾を引っ張った。

 ちら、と振り返ってみれば、何時も飄々とした態度を崩さないレオンにしては珍しい、眉間の皺。

 視線で、もう行こーぜ、とか言ってる。

 ・・・・・・・・・・・・そーいやコイツ。この下士官の事、あんまり良く思ってないんだったよな。





 ま。判る気はするよ。

 俺だって、セフィロスさんに憧れてソルジャーになったクチだ。

 だから、訓練生になって間も無いコイツともう一人が。

 サーに気に入られたってだけでイキナリ彼付きの下士官になったってのには、すっげー反感を持ったさ。





 ・・・・・・けど、なぁ?





 リードに聞いた。遠征演習の時の事。

 最終日の、モンスター討伐で。この下士官が、部隊を。上司を守って、負傷した、事。

 ホントはもっと詳しく聞きたかったんだけど、さ。

 誰も彼も、遠征に出てた初等兵達ですら、具体的には話してくれなくて。

 ただ。ストライフとの事を賞賛するみたいなセリフは、絶えなかった。





 そんなヤツの事を、端から悪く言うなんて、表立ってはもう出来ないだろ。





「――――――何をしてるんだ?」

「うをっ!?」

 気配も無いのにイキナリ声を掛けられて、ビビッた。

 で、ドキドキする心臓押さえつつ、後ろ振り返ってみたら。





「・・・・・・何だリードかよ・・・・・・」

 噂をすれば何とやら、だな。

 呟いたら、何の事だ、と返されて俺はいいや何でもないと首を振った。

 そしたら、リードはそうか、と小さく返し。その視線が、不意にの方へ向く。





。身体は、もう良いのか?」

「・・・・・・はい。大丈夫です」

「そうか・・・・・・だが、余り無理はするなよ?」

「――――――ありがとうございます」





 ぽむ、との頭に乗せられたリードの手にも驚いたけど。

 その時僅かに柔らかくなったの表情にも、驚いた。

 ・・・・・・お前等何時の間にそんな仲良さげになったんだ。





 見ればレオンも俺と同じ事を思ってたみたいで、目を大きくしてリードを見てる。

 だってリードも。俺みたいに表に出す事はなかったけど、俺と同じ反感派だったから。

 なのになんで、ファーストネームで呼ぶくらいコイツの事認めちゃってんの。





「ところで、其の書類は?」

「・・・・・・第1事務室に届ける、資料です」

「そうか。なら俺が持って行こう」

「ですが・・・・・・」

「気にするな。第1は俺が所属している処で、どうせ今から戻るんだ」





 そう言って、の腕からリードは紙の束を引っこ抜く。

 其の腕から続くの手首は嫌に細く、指は異様に白かった。





 ・・・・・・なんか、ホンット大丈夫なのかよコイツ。

 思わず眉を顰めた俺の斜め前で、リードのくすり、と笑う気配。

 何だ?と思って顔を上げたら。

「其れに・・・・・・ああ、ほら。迎えが来たぞ」

 ・・・・・・は?迎え?何の?





「あ〜〜〜〜!!ちゃんみーっけ!!」





 ・・・・・・・・・・・・お、思わず身体が前につんのめった・・・・・・・・・・・・

 で。そろり、と視線を動かしてみれば。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・な、なんか。ブンブン振ってる手に合わせてブンブン振ってる尻尾が見えたぞ・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「――――――サー・ザックス」

「もー戻ってくんのおせーからまーた迷っちまったのかって思わず探しに来ちまったぜー」

「・・・・・・・・・・・・と言うのは建前で、書類の多さに嫌気が差して逃げ出して来たんでしょう」

「・・・・・・うぐっ」





 溜息混じりのの科白に、ザックスはひくり、と笑顔を強張らせ。

 俺とレオン、そしてリードは顔を見合わせて、はぁ、と小さく溜息を吐く。

 ・・・・・・・・・・・・こんな人の下士官なんて、苦労するよなー、なんて。

 なんかちょっと、したくもない同情しちまってさ。





 この時の俺は。

 まさかこの数日後に、この2人と仕事するなんて。

 ・・・・・・思ってもみなかった。

























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