Ver.Hero





 言葉には、力が宿る、って。良く言うじゃん?

 言った事が事実になった、とか。

 アレ、本当の事なんだよ。





「言霊、っていうんだ」





 セフィとザックスが帰った部屋で。

 あんな説明で、本当にあの2人が簡単に納得するのか、と危惧するクラに、へにゃり、と笑う。





「コトダマ?」

「そ。言霊。」





 音を形にして、形に力を込めて。繋げて、響かせる。

 今は廃れたが、最も古い呪法だ。そして扱い方を知っていれば、最も効力の強い呪法。

 名残はソコラ辺に幾らでもゴロゴロと転がっている。





「例えば、名前」

「名前が?その、コトダマってヤツなのか?」

 まさか、って首を傾げるクラに、俺は笑ってぽむ、とチョコボ頭を撫でた。





「名は体を表す、っていうっしょ。名前ってのは、文字通りその人の存在そのものだ」

 だから、昔の人の中には、悪鬼魍魎なんかから惑わされない様に、本名・・・・・・眞名を、世間にさえ隠すなんて事もあった。

 それでもまだ半信半疑なクラに、俺は小さく息を吐いて。





「試してみようか?・・・・・・クラウド・ストライフ」

 蒼い双眸を覗き込みながら名を呼べば、途端ぴしり、と固まるクラの身体。

「表情と声だけは開放してあげる」

「・・・・・・な、に・・・・・・」





イキナリ、自分の支配下から離れて動かなくなった身体に、浮かぶのは困惑で。

「言霊の使い方を知ってて、真名を知っていれば。こーやって人を縛る事も出来るんだよ」

 驚きに、見開かれる蒼い眼に笑い掛けて。俺はクラを開放してやった。

 途端、脱力するみたく倒れ込んでくるクラの身体を支えて。





「・・・・・・本当に、何でもアリだな、アンタ・・・・・・」

「いやぁソレホドでも。」

「なのに1週間以上昏倒してたんだよな」

「・・・・・・・・・・・・あう。」





 ちく、とするクラのセリフに、俺はぎこちな〜く視線を彷徨わせた。

 だって仕方ないじゃん。俺だって、人間軽く飛び越した存在だけど、万能じゃないんだし。

 力、なんて。有り余るくらいにあるから、逆に制御がムヅカシイんだ。

 そりゃ、心配かけちゃったのは悪いなー、って思ってるけどさ。





「・・・・・・まあ、良いさ。過ぎた事は」

「うんうん。過ぎた事過ぎた事。」

「だからって、今後無理したら許さないからな」

「・・・・・・・・・・・・でもクラだってそれなりに無茶・・・・・・・・・・・・ハイ。ゴメンナサイ。」

 謝ります。素直に謝りますから。

 だからそんな睨まないで〜。





 すごすご。ベッドの上でちっちゃくちっちゃく縮こまる俺に、クラが小さく息を吐くけど。

 ・・・・・・なんかすんごい釈然としないぞぉ。

 クラだって無茶したのにー。なぁんで俺ばっかー。





「・・・・・・言霊云々は判った。という事はつまり・・・・・・」

「説明の最中に言霊を練り込んだ。」





 夢多き父親、なんて俺にはいないけど。

 俺を引き取ってくれたじーさまは、親馬鹿を地で行くよーな人だったし。

 魔物、じゃなくて敵だけど。のど真ん中に後先考えず突っ込んでって下さる子供はいたし。

 面白そうだ、って理由で教わった召喚師の先生は、見た目通りにスパルタだったし。

 ・・・・・・半分どころか4分の3以上実話だから、練り込み易かったさ。





「なら、大丈夫なんだな」

「ええもぉ。暗示ってゆーよりぶっちゃけ洗脳しましたって感じ?」

「・・・・・・洗脳、ね」

「んな顔しないの仕方ないっしょ実際が実際だし」

「・・・・・・・・・・・・そう、だな」





 ああああ。だからそんなかなしそーな顔しちゃダメだって。





「くーーーらーーー。」

「何・・・・・・って、うわ!?」

 呼んで、返事の途中で腕掴んで引っ張って。

 ころんって俺の隣に転がったクラに、俺はぎう、と抱き付いた。





「・・・・・・・・・・・・、俺は抱き枕じゃないんだが」

「気にしない気にしなーい」

「・・・・・・そろそろ、時間的に部屋に戻らなきゃならないんだけどな・・・・・・」

「えーココで寝てけばいーじゃん明日早いんだしー」





 ぎうぎうすりすり。おでこを胸に擦り付けながらお願いしたら、頭の上から大きな溜息。

「・・・・・・オコサマ。」

「オコサマでいーもん」

 言い返したら溜息が苦笑になって。俺もくすくす笑いが零れる。





「・・・・・・判った。今日は此処で寝る・・・・・・ああ、そう云えば

 ごそごそと。身体の下にあった布団を引っ張り上げて。

 俺の横にすとん、と入ってきたクラの目が、思い出した様に俺を見た。





「何?」

「明日は覚悟しておけよ。セフィロスもザックスも、俺やアンタに付きっ切りで仕事を放棄していたからな」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・げ。

「・・・・・・ソレってもしかして・・・・・・」

「可也溜まっている」





 神妙な顔をしたクラの言葉に、俺は軽〜く眩暈を感じる。

 ・・・・・・・・・・・・俺、もーちょっと休んでイイかしら。

 呟いたら、そしたらその分仕事が増えるだけだ、とクラに言われて、俺はがくーと項垂れた。

























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