坂道を転がる石ころは、自分じゃ止まれない。
きっかけさえあれば、歯車なんてイヤでも回るんだ。
――――――俺はその事を、身をもって知ったよ。
「・・・・・・・・・・・・え?」
「もう1度言おうか、・、クラウド・ストライフ。お前達2人は、特例により士官候補兵へ昇進した」
「あ、あの、ラインバッハ教官」
「また、本日付けでソルジャー1st・セフィロス、並びにソルジャー1s・tザックス付下士官となる様辞令が来ている」
「・・・・・・・・・・・・はあ!?」
ちょっと待てちょっと待てちょっと待てい!!
薬草学の講義中にイキナリ呼び出しくらって、何を言われるかと思えば。
何ですかソレ!?何ですかソレ〜〜〜〜!?
「不服そうだな?」
「ふ、不服とか以前に・・・・・・」
「・・・・・・一介の、訓練兵の、私達が、ですか?」
「だから、士官候補兵へ昇進したと言ってるだろう」
ぺらぺらり、と2枚の紙っ切れを振りながら、ラインバッハ教官は至極あっさりのたまってくれる。
・・・・・・・・・・・・イヤだからあのですね。
あっさり言われてハイ判りました、って素直に頷ける内容じゃないっしょ。
どーして上から問題児扱いされてる俺等が、イキナリ昇進。
しかも、なにゆえよりによって配属先がかの美人さんの下なのですか。
「今日からお前達の勤務先は、本社ビル67階に置かれた治安維持部ソルジャー部隊所属、総隊長直轄部隊、サー・セフィロスの執務室だ」
「いえあのですから」
「其れに伴い、お前達には今の訓練生寮からソルジャー居住区の、ソルジャー専用寮に引越して貰う」
「・・・・・・・・・・・・はあ・・・・・・・・・・・・」
「業者の手続きは済んでいる。今頃寮の前でお前達を待っている筈だ」
早っっ!!なんて早いのやる事が!?
呆れと驚き、あと混乱寸前でクラと顔を見合わせれば。
人前じゃ無愛想な顔に、やっぱり困惑が浮き出てきてる。
「・・・・・・・・・・・・あの、ラインバッハ教官」
「何だ、まだ何かあるのか」
「本当、なんですか・・・・・・?」
「嘘を言って如何する。此れが辞令だ」
うんうん。クラが聞き返したくなるのも判るよ。
だけど、何かの間違いじゃ・・・・・・なんて意を決して聞いてみても。
証拠を目の前にぴらぴらさせられ、あまつさえその内容をこれ見よがしに見せられては。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・うーわー。ホンットーに現実だよー・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「このまま寮に戻り、引越を済ませた後、14:00までに、其れを持って本社ビルに向かう様に」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・イエス・サー」」
「何だ、覇気が無いな・・・・・・話は以上だ。早く行け」
・・・・・・早く行け、って言われましても・・・・・・
いっくら正式な辞令っつったってさー・・・・・・ぶっちゃけ行きたくないよー・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・其れでは、・、失礼致します」
「・・・・・・・・・・・・クラウド・ストライフ、退出致します」
でも仕方無いし、引越し業者さん待たせるのも悪いから、敬礼をひとつして重〜い足取りでドアへと向かう。
そんな俺等の背後から、ついでの様に掛けられた、声。
「ああ、そうだ。、ストライフ。ひとつ言い忘れていた」
「はい」
「健闘を祈る」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・アリガトウゴザイマス。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・失礼イタシマシタ。」
・・・・・・・・・・・・こんちくせう。楽しそーだねあの教官。
なんかフツフツとこー胸の奥から沸いてきそうな感情を宥めつつ、きっちり腰を90度に折り曲げてからピシャリとドアを閉める。
そしてスタスタと。まるで競歩なイキオイで、クラと一緒に廊下を渡り。
取り合えず言われた様に、寮へ向かう為にエントランスを出た。
――――――さて。
ココまで来たら、一応、イイだろう。
「・・・・・・っっっどーゆー事よコレ!?どーゆー事なのよ!?」
「そんなの俺に言われたって判る筈無いだろう!?」
「イヤそんくらい俺だって判ってるけどっっ!!だけど喚かずにはいらんないよ!!」
「俺だって喚きたいさ!!・・・・・・いや、取り合えず落ち着け。落ち着くんだ」
「・・・・・・うぅ〜〜〜〜・・・・・・」
こめかみを指でモミモミしながら溜息を吐くクラに、俺もまた口を噤む。
そうだ。こーゆー時こそへーじょーしんへーじょーしん。
「・・・・・・全く、なんで俺がザックスの下士官だなんてそんなイキナリ・・・・・・」
「1stは自分の専属下士官を指名出来るからな。俺なんかセフィロスだぞ・・・・・・・・・・・・あ。」
「・・・・・・・・・・・・あ。」
あ、で止まったクラの後、俺もあ、で止まった。
・・・・・・・・・・・・ねぇ、クラ。君いま何て仰いました?
「・・・・・・・・・・・・指名かよ・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・指名、なんだろーね・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・やっぱり、あの模擬戦闘、か・・・・・・?」
「・・・・・・そー、なんだろーね・・・・・・」
がくー、っと一気に疲れた気がして肩を落とす。
クラはクラで、顔を片手で覆って空を仰いでいた。
まったく、あのヒトタチは・・・・・・俺等の意思は無視ですかい。
「しかし・・・・・・仕官候補兵?幾ら訓練兵では問題があるからって・・・・・・」
「ザックスだって訓練兵から初等兵に上がったのは9ヶ月経ってからだったよね」
「・・・・・・俺達は5ヶ月、いや4ヶ月半で上等兵と同等か・・・・・・強引過ぎる」
「評価が良くても素行で留まると思ってたんだけど・・・・・・やっぱり、2回連続でSSを出したのは拙かった?」
「部下にするにはトコトン扱い辛いと、結構アピールしてやったんだがな・・・・・・」
「だよね。もんのすごくアピールしまくったよね」
マテリア学の教官が出した問題とか。
クラが皮肉を込めてそんなトコ問題にしたって意味無いだろ寧ろ此処はなんちゃらかんちゃらと。
バッサリ切り返してぐぅの字も出ないくらい理詰めでやり返したり。
野外訓練の作戦とか。
俺があんまりにもオソマツです穴開きすぎです此処はこうでなくこうでしょうそうすると此処も見直しが必要になりますよと。
アレコレ指摘して教官の顔が赤くなるくらい上げ足とったり。
もーソレはソレはとことん。
優秀過ぎる上に非っ常に捻くれまくった、上司に嫌われます的部下を体現してみせたのに。
「・・・・・・・・・・・・如何する?」
「・・・・・・・・・・・・どーするも何も、俺達を下士官にする理由も判らないのに、ねぇ・・・・・・・・・・・・?」
ウカツに近付くのは避けたい。
美人さんがドコまで侵食されてて、どれだけ俺等の事を疑問視しているか判らない今は。
ソレに、調べ物にも支障をきたすかもしれない。
欲しい情報が未だ手に入らない。
つい昨日も、ハッキングしたけどレヴェル4のセキュリティに引っ掛かって断念したばかりだ。
ああ、もう。幾ら訓練生が学科とかで使う端末だからって、も少しバージョン高いのにしてよ。
ついでにセキュリティ無駄に複雑怪奇過ぎ。作ったヤツ、そーとー捻くれモンだって。
「とりあえずー、直談判で辞退を進言するしかない、ですか」
「・・・・・・素直に聞き入れてくれる可能性は低いけどな」
「が、がんばる。でなきゃやっと寮から学校までの道を覚えた意味なくなるし」
「・・・・・・・・・・・・アンタ其れ視点が違うだろ・・・・・・・・・・・・」
呆れた様に嘆息しながら言うクラにあははと笑って、俺はさてどーやって辞退を受け入れてくれるかを思案する。
・・・・・・・・・・・・ああ、でもでも。
クラの言う通り、可能性ひっくいんだろーなぁ。
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