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 俺とは今、2人1セットとして見られる様になっている。

 騒ぎを起こした問題児。一緒にしておいた方が監視もし易い、という事なんだろう。

 宿舎の部屋もクラスも同じ。此方としても、願ったり叶ったりだ。





 同じ目的を持つ者同士。立場は微妙に違うが。

 最早2人で行動するのは当り前。

 今も、午前の講義が全て終わり、食堂に赴いて一緒に昼食を突付いている処。





 だが。世の中、慣れないものはトコトン慣れないものだと、痛感した。

 其れで無くとも、人の気配に聡くなった神経は、視線に晒される事にすら摩滅する。

 まして、其処に悪意や妬みの感情が含まれていれば尚更。





 以前は普通に1週間の懲罰房入りを命じられた。

 ザックスに目を着けられたのも、この頃じゃ無かった。

 前の時も其れなりに目の敵にされてはいたが、此処まで酷くは無かった筈なのに。





 ・・・・・・・・・・・・仕方が、無いのかもしれない。

 乱闘騒ぎを起こしたにも関わらず、たった1日だけの懲罰房入り。

 其の後で、ソルジャーと一緒にいる場面を、目撃されたとあっては。





 あの顔でサーに取り入ったんだ、とか。絶対裏で上官に賄賂渡してんだぜ、とか。

 人の顔を見るたび、未だに其処彼処で無い事無い事囁く声に、俺はこめかみに指を置く。





 面と向かって言われれば、まだ此方も対処の仕様があるが。

 余りにも陰口、なものだから、此方から殴り込んでやる訳にもいかない。

 そんな事をしたら、今度こそ本当に1週間以上の懲罰房入りだ。





「ナス・カボチャ共の戯言なんかイチイチ気にしてたら身が保たないよクラ」

「・・・・・・・・・・・・判ってる・・・・・・・・・・・・」





 判ってるが、理性と感情は別物なんだ。

 幾ら慣れているといっても、ムカつくものはムカつく。

 此れが訓練生の間、後1年近く続くかもしれないのかと思うと、気が滅入ったって仕方無い。





「しょーがないよ。ヤツ等はアレで自分慰めてんだから。許してやれば?」

「・・・・・・・・・・・・そういう問題でも無いだろう」

「イヤそーゆー問題だって。陰口しか叩けないってのは俺等相手に挫折したカワイソーな負け狗のナケナシの権利。」

「・・・・・・敵わないから他人を貶めるという暇があるなら己を磨けと言ってやりたい・・・・・・」

「ムリムリ。そんな頭良くもないっしょ。」

「・・・・・・何気に辛辣だな、





 其の辛辣さで判った。

 も結構、一杯一杯のところまで来ている。

 何処かでガス抜きでも出来れば良いんだが。

 ・・・・・・・・・・・・けど、無いんだよな。





 兵士養成学校で授業を受ける様になって、早1ヶ月。

 もう、1ヶ月。されど未だ、1ヶ月、だ。





 訓練生という何の権力も無い俺達には、未来を変える為の画策も予想通り上手くはいっていない。

 せめて1等兵、もしくは誰かの下士官か候補生にでもならない限り、具体的に動き出す事も出来ないから仕方無いのだが。





 ストレス発散で身体を動かそうにも、周りに合わせなければならないから実力の半分すら力を出せないし。

 ・・・・・・まあ、俺の場合は肉体が14歳に戻っているから、出そうと思っても出せないのが現状なんだがな。

 で、反動を抑える為に力の殆どを封印しているという。

 何故だと聞いたら、デカイ地震が起きたら其の後に発生する津波もデカイだろ、と説明してくれた。

 良く判る様な判らない様な。





 其れでも、ヤツ等のレヴェルが低いのか、はたまた俺達の力のセーブが甘いのか。

 数日前の筆記試験と体力審査。

 俺とは今期訓練生186名中、主席次席の成績を3位のヤツと大差を付けて弾き出してしまった。

 ――――――そう。

 此の事実もまた、妬みの原因のひとつで。





「そんなに言うなら、アイツ等に愛想笑いのひとつでも浮かべてやれば?単純なヤツならコロッといくよ?」

「そういうこそ、あの丁寧口調と無表情止めれば、人気が出てくるんじゃないのか?」

「ヤダもったいない。俺の笑顔は今んトコクラだけのモノ〜。」

「・・・・・・・・・・・・あのな」

「ソレに俺、クラに合わせてるだけだよ?騒がれない様におとなしーく。」

「・・・・・・其れで2人揃って悪目立ちしたら身も蓋も無いだろう・・・・・・」





 ・・・・・・・・・・・・何の話をしているかというと、俺達の対人関係の事だ。

 此れも、悪意を向けられる要素に当て嵌まる。

 俺としては、目立たない様に大人しくしているつもりなのだが。

 だが、その周りを拒絶した様な態度が、ヤツ等が言うには、お高く止まりやがって、というふうに見えるらしい。





 ・・・・・・仕方無いだろうが。

 俺だって、好きでこんな顔に生まれ付いた訳じゃないし、人付き合いが悪いのは性分なんだから。





、此れ食え」

「・・・・・・ソレくらい自分で食べなよクラ」

「無駄に甘いから嫌だ」





 ハンバーグ定食に付いてきた人参をフォークに突き刺して、の前へと持っていく。

 苦笑を浮かべるは、其れでもパクリと其れを口に入れてくれて、俺は再びハンバーグに取り掛かった。





「おーおー。見せ付けてくれちゃって」

「アイツ等がデキてる、って噂、マジみたいだな」

「綺麗ドコロなら男でも、ってか?うっわ不毛ー」

「俺は判らなくもねぇなあ。だって美人だろーがよ」

「俺も俺も。あの黒髪すっげ好み。ああー喘がしてみてー」





 ・・・・・・・・・・・・むか。

 俺は兎も角、までそんなふうに言うなんて。

 下世話な邪推ばかりをする周囲に、日頃の鬱憤もあって、もう限界寸前。

 そんな俺を苦笑でもってまぁまぁと宥めていたは、次の瞬間表情を消した。

 如何したのか、と思って顔を上げてみれば。





「やーっと見つけたぜぃお2人さんvv」





 半径1メートルくらい。

 ぱっかりと開いた俺達の周りに、ずかずかと入り込んできた、人物。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・また、コイツか。





「いっやーマテリア学の授業だって聞いたてから魔法学棟行ったのに、科目変わっててお前等いなくて焦った焦った」

「――――――何かご用ですか、サー・ザックス?」

「一緒にメシ食おうって昨日言ったじゃん。もしかして忘れたとか?」

「忘れていませんが了承した覚えもありませんので」





 途端物言いが刺々しくなったに、ザックスはまーいーじゃんと笑いながらの隣にどかりと座る。

 其の姿に、俺は本日何度目になるか判らない溜息を吐きそうになった。





 何を如何気に入ったのか、あれからザックスは事ある毎に、俺達に声を掛けてくる。

 どれだけ、俺達が邪険に扱おうとしても。

 ザックスだって、判っている筈だ。避けられている事くらいは。

 なのに。何度も何度も。我慢強く根気良く俺達に構ってくるのだ。





 ・・・・・・嬉しい、とは思う。

 どの時代でも。どんな状況でも、変わっていないザックスが。

 余りにも『未来』と変わらない其の態度に、どれだけ泣きそうになった事か。

 ――――――だけど。だからこそ。怖いんだ。





 だって、ザックスは俺の所為で死んだ。

 俺に構いさえしなければ、俺を見捨てておけば。

 俺に、出会いさえしなければ。

 彼は、死ぬ事も、なかったんだぞ?





 そんな俺の気持ちを知っていて、尚且つ其れは違うだろう、と言っておいて。

 其れでもは俺の気持ちを優先し俺に合わせてくれるから、ザックスに対して冷たい態度を崩さない。





「おっ、美味そーじゃん。一口くれ。」

「人のものに手を出さないで頂けますか?・・・・・・はい、クラ」

「・・・・・・も人の事言えないんじゃないか?」

「だってコレ味がしないです」





 スプーンで掬い上げたシチューのマッシュルームを、目の前に突き出され。

 俺はひと言零しての返事を聞いてから、其れをぱく、と口にした。

 端でザックスが俺も俺もあーんする、とガタガタ椅子を鳴らすが、俺もも一切無視だ。





 其処へ飛んで来た、小さな小さな嘲笑と科白。





「あれ、やっぱぜってぇなんか関係もってるんじゃね?」

「黒髪?金髪?どっちよ」

「両方両方」

「だよな。でなきゃ候補生如きがソルジャーの方とあんな親しくなれるわけねーべ」

「顔がイイって得だよなぁ?誰だってタラシ込めるんだからよ」

「いっぺん誘ってみるか?金さえ出しゃヤらしてくれるかも」

「案外自分から足開いてきたりして」





 そんなに大きな声では無かった。

 だが、異様に耳に届いた。

 恐らく耳にしたのは俺達だけでは無い。

 深、と静まり返った場の中、俺達に向けられる視線だけが、多くなる。





 そんな中。ザックスは目を細め、はぴくりと止まり、俺は表情を消す。

 そろり、と視線を動かし音源を捜せば。

 の真後ろ。ニヤニヤとした下卑た笑みを浮かべながら此方を見ている、窓に近い席に座っている男3人。





 ・・・・・・・・・・・・アイツ等。

 さっき、声に出して俺達をからかったのも、奴等だ。

 此れには、堪忍袋の緒が切れても誰も文句は言うまい。





 食堂、などという大勢が集まる公共の場で。これ見よがしに零された科白。

 其れが俺だけに向けられたものならまだ良い。そういう事を言われるのは慣れている。

 は面と向かって言われない限りああいうのは相手にしないタイプだし。





 だが、其れでも、矢張り。許せないものは許せないのだ。

 を貶める言葉すら、俺は許せないというのに。

 其れでもが留めるから、今の今まで我慢してきたというのに。





 よりにも拠って、奴等。

 ソルジャーである彼まで・・・・・・ザックスまでも、侮辱した。

 金で、男を買う様な人間だと。

 俺の、大事な親友までも。





 臨界点は既に突破していて。

 奴等を怒鳴りつけてやろうと思った。





 ――――――矢先だった。

























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