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 懲罰房の周囲は、人が少ない。

 だから出来た話だが、さっきが言った様に、そろそろ切り替えなければならないだろう。

 俺の思っていた事は、其のままの思っていた事だった様だ。

 腕を組みながら首を傾げて、唸っている。





「・・・・・・うーん、でも女王サマじゃないとしたら、ダレのサシガネ?」

「・・・・・・誰だろうな」

「あんな馬鹿共でも、怪我させちゃった以上実質の加害者は俺等だよな。ふつー」

「なのに何故俺達の懲罰房行きがたったの1日・・・・・・相手は1週間」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・どっかのお偉いさんがあの時俺達のどっちかを見初めて、罰を軽減してくれたとか?」

「・・・・・・・・・・・・止めてくれ。そんな事、考えただけで虫唾が走る」





 げっそりとして言い返したら、何が面白かったのかが噴出した。

 そんなをじとりと睨み、スタスタ歩調を速める。

 後ろで慌てて足を速める。直ぐ目の前に本社は聳え立っていた。





 くぐる、扉。

 曇り空から、照明で明るくなった視界に少しだけ眼を細めて。

 見つけた人物に、思わず足を止めた。





「何、イキナリ止まらな――――――」





 行き成り止まった俺にぶつかって、文句を言い掛けたの言葉も、途中で止まる。

 その、の。あ、と小さく漏らした声を聞きながら。

 にかっ、と笑って片手を上げたソイツに、身体が強張った。





「よう。訓練生のクラウド・ストライフ、と、、だよな」





 ・・・・・・如何して、こんなトコにコイツがいるんだ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・確かに、此処は本社なんだから、任務さえ入っていなければ、いて当り前なんだろうが。





「はい、神羅士官学校今期新入生のです」

「――――――同じく、クラウド・ストライフであります・・・・・・が、自分達に何かご用ですか、サー?」





 の挨拶に我に返って、返事をする。

 ニコニコと笑いながら名指しされたからには、無視する訳にもいかなかったから。

 しかも『今』の俺とザックスは初対面・・・・・・いや、入隊式の時を数に含めれば2度目か。

 勿論、訓練生とソルジャーという関係でしかないから、敬語に敬礼付きだ。





「あー、そのサーっての止めてくんね?なんか背中がむず痒くなってくる」





 出来るだけ動揺を表に出さない様にすれば、返ってきたのは苦笑。

 昨日見た時も、相変わらずだなとは思ったが。

 ・・・・・・もう少し上下関係気にした方が良いぞ。





「ではソルジャー・ザックス。自分達に何かご用ですか」

「ソレも止めてくれ。俺の事は呼び捨て!あと敬語も無し!わかった?」

「理解致しました。が、無理であります」





 間髪置かずに切り返す。

 ウィンクを飛ばしてきたたザックスは、ずるっとわざとらしくすべってみせた。





「なんで!?」

「自分達が訓練生で、ソルジャー・ザックスが上官だからであります」





 ――――――ああ、自分の声が硬い。

 自分の事なのに、何故か他人事の様に思う。





「イヤだから・・・・・・」

「無理であります」

「だからあのね・・・・・・」

「無理であります」





 俺は、『未来』を変える為に『此処』に来たんだ。

 『過去』をなぞる為じゃない。

 だから、ザックスには近付かない。親友にはならない。友達にすら、ならない。

 只の顔見知り。只の上司と部下。其れで良い。其れで。

 そうすれば、少なくとも身を挺してまで、俺を助けようなんてしないだろう。俺の所為で死んだりしないだろう。

 ――――――死なせずに、済むだろう。





「・・・・・・あーもー。イイや今は。だけど絶対っっ!!いつか必ずタメ語使わせてやるかんな!!」

「・・・・・・で、自分達に何かご用ですか」

「・・・・・・・・・・・・ちったぁ聞けよ人の話・・・・・・・・・・・・」





 指を突き付けて宣言してきても、聞く耳持たずを貫き通す。

 するとザックスはがくりと項垂れた。





「あの、サー・ザックス?」

「・・・・・・うをうちゃんまでそんな呼び方・・・・・・ふつーに話そうよーふつーにさー・・・・・・」

「いえ、仮にも上司先輩に当る方に、其れは無理ですから」

「・・・・・・か、仮にも、って・・・・・・」





 俺の横からザックスに声を掛けただが、其の応対に、遂にザックスはその場にしゃがみ込んでのの字を書き出した。

 いじけるザックスには、もう呆れるしかないが。

 ・・・・・・のさっきのセリフも何気に辛辣だな、と思った事は口にしない。





「サー・ザックス?特に用件が無いのであれば、私共は此れで・・・・・・」

「あっ、用件あるある!!だから行かないでお願いぷりぃずこのとーりっっ!!」





 やっと復活か。

 本当に傷ついて沈んでいた訳でもないのに、いちいちオーバーリアクションだよな。

 全く、変わってない。

 喜怒哀楽が激しい、というか。





 ――――――そのくせ、其の人懐こい雰囲気を隠れ蓑にして、周りと一線引いている、ところも。

 『初めて』出会った当初の、おどけている様でいて其の実しっかり俺達を観察している藍色の瞳を見て、そう思う。





「お前等昨日、懲罰房入ってて式典の後の説明とか聞き逃したろ?」

「「・・・・・・はあ」」

「けど学校運営部の奴等が今誰も手ぇ空いてなくてな。取り敢えず、俺が一通りお前等の案内任されたんだけど」





 復活した途端、弾む様な声音で、あははと笑いながらそんな事を言う。

 ・・・・・・ほう。手が空いてなくて。その代わり。

 次期1stと称されている人間が、高々一介の訓練生の案内、か。





「(・・・・・・任されたんじゃ無く、取り上げた、の間違いじゃないのか?)」

「(・・・・・・事務処理とか苦手そうだもんね。仕事から逃げる為の口実には打って付け?)」

「・・・・・・・・・・・・ぐっ。ま、まあ気にすんなそこんトコは」





 図星かよ。

 コソコソ言い合う俺達に、ザックスの笑顔が乾いた感じになって、俺は溜息を。は苦笑を零す。

 本当に、変わってない。

 報告書の類は俺やセフィロスに押し付けてトンズラしていたあの頃に。





「掲示板、組み分けとか宿舎の部屋割りの張り出しとかもー撤去しちまったからさ。あ、これプリントな」

「「・・・・・・有り難う御座います」」

「けど、案外早く出て来れたなーお前等。俺の予想だともー2、3時間は通達遅れんじゃねぇかと思ってたんだけど」

「「・・・・・・・・・・・・は?」」





 ・・・・・・・・・・・・ちょっと待て。

 今何て言った?なあ、何て言ったんだ?

 思わず、と2人してマヌケな声まで上げてしまった。





「・・・・・・あの、サー・ザックスは私達の懲罰免除について、何かご存知なんですか?」

「うん。てか免除の申請出したの俺。で、ソレ受理したのにーさ・・・・・・英雄セフィロスね」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」





 の質問にサラリと返したザックスの言葉に、俺達は沈黙した。

 思わぬ処で答えが出たな。

 ――――――って、如何してザックスが?

 セフィロスが直でやったというなら、やっぱりジェノヴァ経由か、とまだ思えるんだが。





「・・・・・・理由を、お伺いしても?」

「ああ。お前等けっこー注目度高くてな。周りの証言、どー見てもアッチの方が悪いってのが大半だったし」

「「・・・・・・・・・・・・だったし?」」





 まだ他にも理由があるのか。

 というか、そっちが本当の理由、だろう。

 じと、っと先を促せば、ザックスはそんな睨むな睨むな、と苦笑して。





「ぶっちゃけ、俺がお前等を気に入ったから」





 ・・・・・・・・・・・・の読みは当っていた。

 俺達は、事もあろうに、ザックスに見初められていた。





「かなり実戦的な動きしてたじゃん?んな今直ぐにでも使えそーなヤツをんなトコに1週間も逗留するのも勿体ねぇなぁって」





 ・・・・・・戦闘能力か、原因は。

 今後、気を付けないといけない。





「んなワケで。お前等には期待してんだ。頑張れよな」

「「Yes.sar」」





 に、と笑って俺達を見たザックスに。

 俺達は、踵を鳴らして敬礼を返した。

























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