Ver.Cloud





 光を瞼の上に感じて意識が浮上した。

 ソレは柔らかいにも関わらず、何処か強く刺さる様な鮮やかさで。





 ・・・・・・・・・・・・おかしい。

 俺はライフストリームに呑まれた筈だ。

 あの光は、こんな現実味を帯びたモノじゃ、ない。





 思わず、身体を跳ねさせる様に飛び起きる。

 そして。

 見回した周囲に、絶句した。





「・・・・・・・・・・・・何、で・・・・・・・・・・・・?」





 自分の匂いの染み付いたシーツ。自分が使っていた机。

 懐かしい間取り。窓の外はあの当時と変わらない。

 ソレに、何より。

 目に留まった、卓上カレンダー。

 1990年、3月。

 そして視線を向けた鏡に映るのは。

 線の細い、子供の姿。





「・・・・・・ちょっと待て・・・・・・」





 思わず、頭を抱える。

 何が何だか判らない。

 確か俺はさっきまで、彼を切り倒した事に嘆いてはいなかったか。

 動かなくなった彼の身体を抱き締めて。涙を流していたのではなかったか。





 なのに今自分が居る場所は。

 10にも満たなかった時に描いた壁の落書きや。

 マグカップを落として付いた床の傷。

 誕生日のたびに刻んでいた背丈の、柱のメモリまで。





 ココはニブルヘイム――――――失くなった筈の、自分の部屋だ。

 彼が壊した筈の、俺の故郷だ。





「なに・・・・・・俺、今まで夢でも見てたっていうのか・・・・・・?」





 それにしては、リアルな夢。

 ・・・・・・・・・・・・いや、もしかしたら今の状態こそが、夢なのかもしれない。





 だって、覚えているんだ。

 彼の刃に貫かれた時の痛みも。目の前でアイツや彼女が死んでしまった時の苦しみも。

 肉を断つ感触、冷たくなっていく彼の身体すら。

 全部ぜんぶ、覚えてる。





 だから、アレが夢だっただなんてオチは在り得ない。

 だったら今のこの状況は、何だ?





 訳が判らなくなって、ぐしゃ、と前髪を掻き上げる。

 ――――――その、時。ふと。

 髪を掻き上げた手に目がいった。

 いや、正確には・・・・・・その、中指で光る、モノに。





「・・・・・・・・・・・・こ、れ・・・・・・・・・・・・」





 幅広の、シルバァの、リング。

 緻密でいて繊細。そんな彫刻が施された。





 ――――――だから、お前は、戻りな。

          星が許した刻。遣り直しという、ガイアがくれた恩恵に従って。





 瞬間。

 フラッシュバックした、声。

 何処か通り過ぎる風にも似た、軟い響き。





 ・・・・・・・・・・・・覚えて、る。

 あの時。

 彼の全てが終わり、また己すら全て終わらせようとした星の息吹の中で。





 ――――――全てが始まる、以前へ。

          俺も、行くから。





 俺は確かに目にした。

 宝石の様に美しい赤味を帯びた金と、青味を帯びた銀を。

 黒髪に、無色にして透明なる翼を生やした天使を。





「・・・・・・・・・・・・夢じゃ、ない」





 知らず、握り締めていた手に、力。

 そうだ。俺は覚えている。

 このリングをくれた人の顔を。

 手を貸してやると、そう言って俺の頭を撫でた、あの指の繊細さを。





 ならばこの状況は。

 今、俺が置かれた立場は。





「・・・・・・『星が許した刻。遣り直しという、ガイアがくれた、恩恵』」





 あの人の、残した言葉。

 ソレが本当だというのなら。

 ・・・・・・・・・・・・ああ、やってやろうじゃないか。

 同じ過ちを、2度と繰り返さない為に。

 彼を、俺の傍らに繋ぎ止める為に。





「――――――やってやる」





 今度こそ、後悔のない、未来を。

 心の奥底に、決意を、抱き。

 右手のリングに、キスを落として。





 ――――――目指すは、ミッドガルだ。

























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