たかが腕一本。されど腕一本。しかも利き腕を負傷したとあれば。

どれだけ大丈夫だと言っても、戦場に出るなどという己の希望は受け入れられず。



勝負に出る、と云った。現総帥の強気な発言により。一部を除く、後方援護の医療班、諜報班といった非戦闘員は先に帰還させられ。

彼等と行動をする羽目になってしまった准将は、どうにも居心地が悪い思いを、医療班の手伝いを買って出る事で遣り過ごしていたのだが。



「・・・・・・ホンマに大丈夫やのに・・・・・・妙なトコで偏固なんやから・・・・・・」

「まあそう言うなよ。アイツアレでけっこー心配性なんだぜ?」



思わず憂鬱な気分で呟けば、返って来たのは笑いを含ませた声。



今回のミッションでの戦闘は激しく、死人は出ていないが運び込まれた負傷者の数は多い。

其の余りの人口密度に酔って、我慢が出来ずに奥へ逃げ込んできたアラシヤマと。

其れに付いて来たジャンは、背後の喧騒も何処吹く風でのんびり珈琲を啜っていたりなんかして。



「手伝わんでよろしおすの?」

「えー?俺研究員だけど医療班じゃないから何していいかわかんなーい」



白々しさに、思わず溜息。

其の拍子、ふと視界の端に掠めた仕切りの向こうに、微弱だが人の息遣いを感じて、ゆたり、と足を向け。

そろり、とカーテンを捲った向こう側。

一番に目を惹いたのは、夜よりも深い黒髪と、象牙の様に白い肌。

其の色の対象差はいっそ病的な程、眼球に痛々しく映し出される。



「・・・・・・もしかして、この子どすか?」

「ああ」



先日、シンタローに拾われ。

ジャンの、滅多に表に出さない怒りを駆り立てさせた。



「ずっと、このまんまなん?」

「ああ――――――もう、瞼を開けるだけの力も、無いと思うよ」



静かな応えに、そうか、と俯く。何だか遣る瀬無い気持ちがした。

望んだのか、其れとも強制されたのか――――――今此の場に、其の問いに答えてくれる者はいないけれど。

しかしこんな。未だ子供、といっても差し支え無い、少年が。薬漬けにされて。戦場に、出て。

使い捨てられた玩具の様に、命を。



「・・・・・・・・・・・・なんや、やりきれへんなぁ」



憂鬱な溜息と共に、吐き出された声音は鎮痛。

さらり、と。瞼に掛かる前髪を掻き上げてやれば、整った容貌が露になる。

其れは、戦場には余りにも不釣合いで。哀しいくらいに繊細で、恐ろしい程に儚げな。



「ホンマ、やりきれ――――――」



繰り返し呟いた声音は途中で途切れた。

動きを無くした様子に、どうした、とジャンが近付く。

――――――そして彼が、アラシヤマの肩越しに見たもの。



「・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・うそ・・・・・・・・・・・・」



思わず、固唾を呑んで見守る。

そんな二人の目の前で。ふるり、と一度だけ震えた瞼。

其れは酷く、ひどくゆっくりと持ち上げられ。

そして、其の奥から晒された、けぶる様な瞳の虹彩は、まるで奇跡の様に目にも鮮やかな。

朱金と青銀。




 




 




 




 




 










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