「いく、のか」
風渡る草原で
金の髪持つ蒼眼の青年は問う
眼前に在る細い細い背に
「いくのか?」
草歌う空の下
緋の眼持つ黒漆の髪の青年が訊く
目前に立つ細い細い背へ
風が吹く
其れは幽かに 嘆きにも似て
草が啼く
其れは時折 慟哭の様に
「 ああ 」
思い残す事など 幾らでも在るけれど
けれど もう
もう 充分だ と
最期に此の世界で
耳にした音が 彼等の声ならば
最期に目にした者が 彼等ならば
もう 充分だ
ゆたり と痩身が動く
煽られ靡く 闇色の絹糸
初めて出会った当時と変わらずに
時を重ねなくなった其の姿
「 も う い く よ 」
ざあ
吹雪く 強風
密やかさすら秘めた声音を掻き消す如く
思わず眼を眇め
一瞬だけ閉ざし空白となった景色
彼の人の姿は既に無く
残された音の余韻
其れは 行く のか
其れとも 生く のか
或いは 逝く のか
最期に瞳に焼き付けたのは
奇跡の様な朱金と青銀
其れから溶け消える雪の様な
淡い 笑み
そして最期まで紡ぐ事が出来なかったのは
別離の 言葉
『 何 時 か 又 何 処 か で 』
気配の名残が
風の中 囁いた様な気がして
只 其れは
身勝手な此方の願望でしか無いと
判って いたのだけれど