遠い昔。1つの命が在りました。




 
 混沌の一欠。光の寵児。闇の宝。世界の愛を一身に受けしモノ。

 故に何時しか、宝玉と呼ばれる様になったモノが。




 
 宝玉は自然の全てから慈しまれていましたが、常に孤独を感じていました。

 何故なら宝玉は、同胞というモノを持たない、此の世で唯一無二の存在だったからです。





 だからこそ、人間と云うモノに、好意を抱きました。

 『親子』や『兄弟』や『恋人』や『友達』といったモノに、憧れを持ちました。




 




 




 




 
 ある日宝玉は、人間に化けて人里へ降りました。

 里の人間達は、宝玉の正体に気付きもせず、宝玉を快く迎え入れました。





 宝玉は歓喜しました。初めて感じた優しい人達の心に。

 其の存在を愛しました。差し伸べてくれた柔らかい人達の手を。





 幸せな、幸せな時を、過ごしました。




 




 




 




 
 けれど、其の幸せは長く続きませんでした。

 宝玉の正体を、見抜いた男がいたのです。





 男の心には野心が溢れていました。富と名声、何より力を、望んでいました。





 男は、宝玉の持つ力を手に入れたいと心底から望み。

 善人の仮面を被り宝玉に近付いて罠に嵌め。





 宝玉を、犯して殺して喰らったのです。




 




 




 





 古来より、人ならざるモノの血肉は、人に不思議の力を与えると云われて来ました。

 果たして男は、人成らぬ力を手に入れ。





 しかし、此れだけではまだ足りぬと。

 手に入れた力を用いて、生まれたばかりの己の子供に、宝玉の魂を封じ込めてしまいました。

 その上更に、男は魂が逃げられない様に、禁じられた術まで使ったのです。





 己が死んでも。子供が死んでも。一滴でも己の血を受け継ぐ者が此の世に生きている限り。

 子々孫々、其の血に、宝玉の魂が縛り続けられる様に。

 復活も、転生も出来ぬ様に呪いを掛けました。




 




 




 





 男の没後、子孫達は血を薄めない為に近親相姦を繰り返しました。

 宝玉の力がもたらす富を、名声を、手放す気が無かったからです。

 解放の手段が、一族の滅亡のみと知れば尚更。





 世間への体裁も踏まえ、真実も歪められました。

 宝玉は、人里を脅かしていた妖に。

 男は、其れを退治した英雄に。





 真実を知る者は、何時しか、一族の長と魂を封じられた子供だけになりました。




 




 




 




 
 封印の器として定められた子供は、何時しか”祀り人”と呼ばれる様になりました。

 宝玉に祀る器として。一族に捧げられる贄として。

 殺される為だけに、生かされました。





 生まれる前から定められていた子もいれば、生まれてから定められた子もいます。

 そして一度”祀り人”として定められてしまえば、二度と逃れる事は出来ません。





 宝玉を封じているという印が、身体に現れるからです。

 太陽の朱金と、月の青銀を。其の目に宿すからです。




 




 




 




 
 封じられた宝玉の魂は、子供の中で嘆きます。





 憎みました。恨みました。

 人と云う、生き物を。





 けれど一番最初に、知ってしまったから。

 優しい心を。暖かい手を。柔らかい微笑を。

 一番最初に、知ってしまったから。





 だから憎みきれないと、まだ愛おしいと。

 人と云う、生き物を。




 




 




 




 
 限り無い程の憎悪を抱えながら。

 夥しいくらいの慕情を抱いて。





 其れでも、只、いとおしい、と。

 ずっとずっと、嘆き続けているのです。




 




 




 




 
 今も、まだ。




 




 




 




 




 




 




 




 

昔語りが生んだ悲劇。





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