「はい〜〜〜〜っっっ!!?」



 某月某日。

 火影の屋敷に、素っ頓狂な大声が上がった。




 




 




 




 
「んだよソレ!?何で今更!?」

「今更では無いわい。前々から話には上がっとった」



 ぎゃいぎゃいと、声を荒げている黒髪の痩身の青年。

 対するのは、飄々とした老人である。



「だからってっ、手続きも何にもナシでイキナリ・・・・・・っっ!!」

「別にいらんじゃろうそんなモノ」

「イヤいるって絶対!!無かったら周りから変な目でみられるって!!」

「その辺は大丈夫じゃ。ちゃんと手は打っておる」

「ソレでもさあっっ!!」

「火影であるワシが決めたんじゃ。誰にも文句は言わせん」

 きっぱりとした物言いに、青年はぐっ、と息を詰める。



 そんなの横暴だ職権乱用だ。



 とか何とか思いながら、如何にこの事態を回避するかをぐるぐる考えて。

 考えて。考えて。考えまくって。





「・・・・・・引き取ってくれた恩は返す、と言うたのは誰じゃったかな?」

「うっっ」

 ぼそり、とあらぬ方向を向いて口にされた老人の言葉に、余計言葉に詰まった。



「働かざる者食うべからず、ただ飯食いの穀潰しにはならん、そう言うたのは何処の誰じゃったかのう?」

「ぐっっ」

 言い返したいのに言い返せない。



 そんな青年に、老人はにやり、と人の悪い笑みを浮かべ。

「お主も知っていよう。今里の忍は人手不足。心境としては、猫の手でも借り受けたいと云うのが現状じゃ」



 其れは確かに青年も知っていた。

 書類と睨めっこしながら深い溜息を吐くこの老人を何度も目撃している。

 何より、この間受けた暗部の仕事の片割れが、現役引退した筈の今は平和な下忍担当の先生。



 ソレだけ人手不足は深刻、と云うワケで。



 しかし。しかしだ。今更こんな事を告げられ押し付けられたって、あんまり嬉しくない。

 そんな青年を尻目にして老人は。



「と云う訳での。お主も男なら潔く腹を括れ」



 とんとん、と指で叩いた机の上。

 其処に置かれていたのは、真新しい木の葉の忍の額当てが一つ。




 




 




 



 
「火影様が決めた事だから、おれらは何も言えねぇな」

「まあ、別にいーんでないの?」

「だーけーどーさー・・・・・・」



 上忍行き着け、とゆーか溜まり場。飲み屋の人生色々。

 徳利持ってお猪口に酒を注ぐ銀髪覆面と熊髭の間で、が唸る。



 その手には、渋々受け取ってしまった綺麗な額当て。



「試験もナンも無しにイキナリ忍になれって言われてもなぁ」

 なんかちょっと、イヤイヤ結構、後ろめたい。

 世の中には、なりたくてもなれない人間など五万といるだろうに。



 ソレにこんなモノ無くても、今までソレナリに仕事をこなしていたのだ。

 今更受け取れと云われたって、どーにも納得出来ないと云うのが心情。



 しかもイキナリ特別上忍ってどーよ。



 ぼやくの頭を、カカシがぽむっ、と叩いた。

「ってゆーか俺としては今までが忍じゃなかった事の方が不思議だケドね」

「ほう。そうなのか?」

 話に乗ってきたアスマに、うんうんと得意そうに頷き。

「そうなのよ。だってってばつ」

「カカシせんせ酒無くなってるよっ、ささっ、もう一献!」

 言いかけた言葉を邪魔したのは、にゅっ、と横から差し出された徳利。



 ちら、とみたの眼は密かに殺気立っていて。



(暗部の正体バラそうとするなんてあんた馬鹿ですか←小声)

 ぎこちな〜くから目を背けて空笑いするカカシである。



「コイツが何だって?」

「い、いやあ、強いのよって体術結構。前に手合わせした事あるんだけーどね。ま、まだまだ俺には及ばないだろうけど〜。確実にナルトやサスケよりは強い」

 そんな二人に首を傾げるアスマに、カカシは嘘八百を教える。



 いやナルトやサスケより強いのは確かだが。

 実際に手合わせなんぞした事無いし。恐らくカカシよりも実力は遥かに上だ。

 でなければ、暗部に所属してしかも火影の懐刀などと裏で呼ばれている訳が無い。

 しかしそうでも言わなければ横から睨みくさっていらっしゃる方が後で何を仕出かすか。



 そんな二人を、怪訝そうにしながらも一応納得したらしいアスマはそうか、と1人頷き。

「呪術師ってだけでも稀有なのになぁ」

「火影様から基本的な忍術一通り教わってるみたいだーしね。ある意味無敵?」

「ああ、なら忍になれって言われるのも仕方ねぇわ」



 のほほんのほほん。仏頂面で額当てを見ているを挟んで、アスマとカカシが小さく笑った。



 その時。



「こんな処に居たのね二人とも」

 掛けられた声に3人揃って振り返れば、其処には腕を組んだ赤い眼の女性。

「よう、紅」

「いーいトコに来たね。紅も一杯呑む?」

 片手を上げるアスマとお猪口を掲げるカカシに、紅は悪いけど今度誘って、と小さく笑って返し。



「火影様から召集よ。急いで――――――くんも、ね」

「え、俺も?」

 きょと、とは首を傾げ。しかし告げられた後の皆の行動は、早く。

 勘定ココに置くよ、と言い残し、其処にあった筈の四つの人間は煙の様に、消えた。




 




 




 




 
 その後。

「ええ〜〜〜〜っっっ!!?」

 火影の屋敷に、再び素っ頓狂な大声が上がる。




 




 




 




 

忍になる事を押し付けられました。





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