小さくは無い膳の上。処狭しと並べられた幾つもの甘い食べ物。
何時もの様に上座の左側に座り、美味そうに其の内の一つを頬張っているの前には、不機嫌も顕わなナルトがいる。
そんな光景に、思わず火影は嘆息した。
其の吐息に、二対の瞳が火影に向く。
片や飄々と。片や爛々と怒りを滲ませて。
「じーさま、お帰り」
迎えたは、お茶でも淹れるよと立ち上がり、奥の台所へと姿を消し。
残された少年と老人は、暫くの間視線を合わせ。
「・・・・・・其の様子じゃと、もうバレてしもうた様じゃな」
「バレる様に仕組んだんじゃねーのかよ」
重い呟きにそう切り返せば案の定、に、と笑う火影にナルトの気分は更に降下の一途。
「何が気に入らんのじゃ。知りたかったんじゃろ?」
よいせ、と上座に腰を下ろしながら嘯く火影に、ナルトは狸め、と睨め付ける。
確かに知りたいとは思っていたが、期待外れだった。
珍しく己が興味を持った相手の正体が、よりにも拠って彼れだ、など。
しかもは、ナルトが『夜』であると端から知っていた。
バレてはいないと、他の者と同じ様に『表』を演じていた自分が、馬鹿みたいだ。
と、其処でふと思い付く。
「って、アイツがオレの裏の顔知ってたのも、じっちゃんがバラしたんだろ?」
返答次第では最終手段も取るぞと、暗に視線に殺気を込めるナルトに火影ははて、と首を傾げた。
「いや、彼奴はそういう事にはさして興味を持たんからの。聞かれもせん事を話しはせん」
「じゃあ何でオレが『夜』だって知ってんだよ」
「んなの、見りゃ一発で判んじゃん」
ナルトの疑問に、答を返したのは当の本人。
座した二人が揃って振り仰ぐと、盆に人数分の湯気立つ湯飲みを乗せて、が何を当り前な事を、と二人を見ていた。
「じーさま忘れてねぇ?俺、人万倍眼も耳も鼻も良いんだぜ?ま、視え過ぎるってのもタマにキズだけどな」
そう言って、一つ瞬きした後のの眼は。
――――――左に朱金、右には青銀。
其れは、もう一つ瞬きを落とした後には何時もの黒に戻っていたが。
「ナルトの本性も腹ん中の九尾も、ついでに今までどんな生き方してきたかも、俺には初っ端からお見通し」
膳の端上に隙間を作り、其処に盆を置いて。
すとん、と座るにどういう意味だとナルトが視線を向ければ。
「過去視か」
「そ。我が強かったり記憶が鮮明だったり強烈だったりすっとさ、視ようと思わなくても視えちまうの」
火影の一言に、は小さく苦笑した。
其の遣り取りに、ナルトは納得しつつも冷たい視線をに向け。
「・・・・・・お前が『月』だって事は。やっぱあの時のもお前だったんだな」
「へ?あの時の、って?」
「二週間くらい前の、満月の晩だよ」
苛立つ様に告げたナルトの言葉に、火影は表情を無くし口を噤んだ。
蒼い月光。
切り刻まれた幾多の躯と、其れを喰らう幽玄の様な人型。
今思い出してもぞくりと肌が粟立つ。
狂気に塗れた行い。
しかし何処か神聖な儀式にも似た。
美しいと感嘆すらしそうな程の。
「ああ、そーいやなんか視線感じるなー、とは思ってたけど。アレ、ナルトだったんだ」
「――――――狂人だな、お前」
飄々と。何の躊躇いも無いの言葉に、突き刺さるは冷たい冷たい、ナルトの言葉。
其れに火影が噤んでいた口を開こうとする。
しかし先に。
「アタリマエ。俺以上に狂ってるヤツなんて、多分この世の中のドコにもいねーよ」
くつくつ、と。面白可笑しげに笑うに、意味は違えど火影とナルトの双方が顔を顰める。
一人は、痛ましげに。そしてもう一人は、嫌悪も顕に。
「つか、俺ってば人の出来損ないだし?」
言いながら、口の中に団子を放り込むの手元を見る。
甘党ならば、誰もが目を輝かせるだろう数の菓子類。
しかしナルトには、其れ等がどうしても食をそそるものには、見えなかった。
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