「・・・・・・良いのか、其れで?」
背後から、年輪を重ねた老人の、朗々たる声。
其れを受けた少女は、目前の位牌から目を背ける事無く、肯、と頷き。
「本来ならば、お客人である貴方様にお願いする事では無いのですが・・・・・・」
躊躇う様な声音は、其れでも奥底に芯を宿す。
「斎賀は、膿んでいるのです。引き返せない程に」
変えられぬ決意に、老人は遣る瀬無い感情を抱く。
今は里に居るであろう金の子といい、この少女といい。
――――――そして、この少女の片割れであるという、未だ目にした事も無い子供といい。
何故、己が知る幼子達は、此れ程までに人ならざる道を強制されるのか。
その心の揺れを悟ってか、少女は小さく微笑み。
「その様なお顔をされる事はありませぬ。此れは、私が、私自身の意志で決めた事。ですから、どうか」
老人に振り返る、少女の瞳の虹彩は片方が黒。そしてもう片方は・・・・・・琥珀。
「どうか、あの方に幸を。掴ませてやっては頂けませぬか。其れが、私にとって、最上にして最高の・・・・・・」
呪われた血脈への、復讐なのだから。