泣き声が、聞こえた。

 それは聞いているこっちが痛くなる程の、血を伴った声だった。





 浅い眠りの中にいた俺は、ぼんやりと目を開く。

 瞬間、視界に広がったのは、ひかり。

 淡い、愛(かな)しいくらいに優しい、碧の――――――





「・・・・・・ってなんで!?」





 思わずガバッ!!と上体を起こすも、支えるものがなくてワタワタする。

 うえー・・・平衡感覚ないよー・・・モロ無重力だよー・・・・・・。





「つかココ何処よ?」





 どーう見たって、寝る前まで居た俺の部屋じゃない。

 上見ても下見ても。

 左右前後何処も彼処も、碧、ミドリ、みどり。





 まーさか、また転移の呪文口ずさんじゃってたとか。

 ソレとも、無意識で次元に穴開けちゃった、とか?





「イヤイヤ、そんなハズないよな。うん」





 力の8割は厳重に強固に封印してる。

 それこそ、印と刻と紋と言霊と、要石なんてゆー5重もかけて。

 残りの力にしても、手順を踏まなきゃ次元を跳ぶなんてデカい事はできない。

 て事は。





「誰かが、呼んだ・・・・・・?」





 でも誰が。

 自由に使える力が2割しかない今の俺の気配は普通の人間並み・・・・・・のハズだ。多分。

 まあ、ソレでもやっぱり色んなモノに好かれる体質、ってのは隠しきれなかったけど。

 だからよっぽど年数重ねた――――――階梯昇ったヤツでないと、俺が宝玉だなんて判らない、と思う。

 ソレこそ、神属クラスのヤツや、高位の精霊とか魔族くらいでないと。





 だけど、ココにはそんなヤツの気配なんか感じない。

 確かにこの碧の光の河は、すごい力に溢れてるけど。

 とても俺を『喚ぶ』だけの意思の強さを、持ってない。





 んー?と首を捻ってみて。

 目を覚ます直前の事を、思い出す。





 そう。

 泣き声が、聞こえたんだ。





 ――――――・・・・・・けて――――――





 確か。

 とても、とても痛い赤色に塗れた。

 絶望に堕ちながら、それでも救いを求めて、嘆く。





 ――――――たすけて――――――





 聞こえた声に、ハッと目を向けた。

 ソレは俺の足元。

 碧の光の流れの中に、人影。





 輝く、金色。

 膝を抱く腕、震える肩。

 小さな小さな、子供。





 ――――――直感。

 あの子だ。俺を呼んだのは。

 血を吐くよりも痛々しい、泣き声を発したのは。

 ――――――・・・・・・きんいろの、あの子だ。





 つい、と体をその子に向ける。

 意に反して、ってってゆーか。

 何かちょっと意識しただけなのに、俺の体はキレーにその子の横に着地して。





「どうしたの?」

 ぽむ、と頭を撫でてやったら。

 ぴくり、と小さく震えた小さな頭が、のろのろと俺を見上げた。





 ――――――たすけて。





 その、顔の。

 お人形さんみたいな小奇麗さ。

 深い深い悔恨を秘めた、苦しいからこその美しい、表情。





 ――――――アイツを、たすけて。

          あのこを、たすけて。





 ぽろぽろと。玉の様な涙を蒼色の瞳から流す。

 こんな、年端もいかない様な子供には、似つかわしくない。

 静かな静かな、だからこそ激しい、悲哀。





 ――――――あのひとを、たすけて。





 触れた手から伝わる、イメージ。

 黒と紺。茶と碧。金と蒼。銀と翠。





「・・・・・・・・・・・・うん。わかった」

 気が付いたら、そう口から吐いて出ていた。





 膝を折り視線を合わせて、零れる涙を唇で拭ってやる。

 途端、ぱちくり、と目を瞬かせた子供に、にっこり笑って。





「俺に出来る範囲でなら、手を貸してやるよ」

 ――――――ほんと、に?

「ん。ほんと。」





 俺の返事に、碧の光が流動する。

 途端、流れ込んで来る、膨大な情報。

 膨大すぎて、殆ど右から左でさらっと大まかに理解するくらいしか出来なかったけど。

 だけど大体、俺はココが何処なのか検討が着いた。

 この碧の光が何て呼ばれているのかも。

 ――――――それから、この子が泣いてる訳も。





 ・・・・・・・・・・・・ふぅん。そーゆー事、ね。

 まあ、確かに俺は人間贔屓だから?

 アンタなんかの直談判より、こーんな可愛い子のお願いの方が効力は強いさ。

 アンタも、この子に重荷を課し過ぎた事を悔やんでるんだろ?

 だから俺をココへ呼んだんだ。この子の嘆きを使って。

 なあ?――――――ガイア。





 きゅ、と。俺の服の裾を掴む小さな手。

 柔らかいソレを手に取って、ちゅ、とひとつ人差し指の付け根に、キス。





 練り上げるのは自分のアーグ。

 ココはライフストリーム――――――エーテルの宝庫だし?

 この2つさえあれば、どんなモノだって、具現化させるなんて、お手の物。

 コレは、お守りだ。

 そして、俺を呼んだのが『この子』だと判る、目印。





 細い指に、シルバァに似せた、リング。

 爆ぜる炎と、流れる水と。茂る緑に舞う風を模した。

 うん。我ながら、力作。





「助けになってやる」





 だからお前は、戻りな。

 星が許した刻。遣り直しという、ガイアがくれた恩恵に従って。

 全てが、始まる以前へ。

 俺も、行くから。





 名残惜しいけど、柔らかくて心地良い手を手放してやれば子供達の体はふわりと浮いて。





 ――――――あり、が、とう。

「・・・・・・・・・・・・ああ」





 最後に見たのは。

 本当に純粋な、子供の微笑み。




 




 




 




 




 






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