しゃらん、とドアに付けたベルが鳴る。
その音に、は読んでいた本から視線を上げて。
「いらっしゃいませ」
入って来た2人の少年に、ふあり、と営業スマイルを向けた。
装飾店
『 R U B B I S H 』
「・・・・・・へぇ。結構良いモンが揃ってんじゃねーか」
「でしょでしょ?俺も実際見るまで全然興味無かったんだけどさ、スコールがココは絶対イイって」
「ああ、アイツ好きだもんなこーゆーの」
商品をゆっくりと物色しながら交わす少年達の会話に。
俺は小さく笑って再び本に視線を戻す。
スコール、って言ったら、多分アレだろうな。
何が気に入ったんだか、周に2回は必ずココに来る、線の細い茶髪蒼眼の。
確かに好きそーだったもんな。
この間なんか、ブレスとリング手にとって2時間も3時間も延々悩んだ挙句、結局2つとも買って帰っていったし。
思わず素で笑いを噛み殺してしまった。
笑われた当人は、ほんの少し憮然としていたけど。
ソレでも手にした商品を突っ返さなかった事に、また後で笑ったものだ。
「全部、手作りなのか?」
「みたい。同じのが1つも無いし」
話し続ける2人の客は高校生くらいの、どうやら双子。
綺麗な顔をしてる。ま、俺には負けるだろうけど?
それにしては雰囲気が正反対だ。
片や気位の高い猫。
片や人懐っこい犬。
面白いくらいに違う。
「あ。ねぇねぇ新一。コレなんかどぉ?」
「あ?ああ、そうだな。オメーにしちゃあイイ趣味してんじゃねーの?」
「何ソレ新一俺の美的センス一体どんなだと思ってたのさ」
「イヤ普通に世間一般からズレてると思ってたけど」
「うわヒドッ」
どうやら犬の方が、立場的に弱い事が判明。
それにしても、端で聞いてれば漫才みたいだ。
思わず本の影で小さく笑ってしまう。
「俺はコレだな。繊細だけどどっか1本芯が通ってるみてーでさ。何よりシンプルなのが良い」
「あー、ゴテゴテしたの嫌いだもんねー新一」
「まーな。つーかオメーだって嫌いだろーがよ」
「嫌いってゆーか何てゆーか・・・・・・うん。確かに嫌いだけど」
「んだよ、歯切れ悪ぃな」
「こーゆーアクセ事態は嫌いじゃ無いんだよ。問題は身に着けてる人間の方で」
「人間?」
「だから、良くいるじゃん?似合ってもないのに数ありゃ良いって感じにじゃらじゃら着けてるのが」
「・・・・・・ああ、居るな。そんなバカ」
「似合ってるならいーんだよ?だーけーどーさー・・・・・・あーゆーの見てると、何か背中に蹴り入れたくなるんだよね」
「・・・・・・ソレは同感。」
「その所為かな。俺、アクセ着けるのあんま好きじゃないんだけど。ココのなら1コくらい着けてもいっかなー、なんて」
「そうだな。ココのなら、な」
・・・・・・嬉しい事を言ってくれるじゃないか。
確かにこーゆーのを好む若人達ってさ。
デザインとかバランスとか考えずに、持ってるモノ全部、有るだけ着けてます、ってヤツが多くて。
コレは製作者、としての意見なんだけど。
自分の作ったモノがそんな一箱幾らのリンゴの一個みたいに扱われるのは余り気分の良いモンじゃない。
でも売らなきゃ店開いてる意味無いし。
客を選べる程繁盛してるワケでも無いし。
でも。うん。
この2人なら合格。
気分良く俺の子供達(?)を送り出せる。
「すみません。コレください」
掛けられた声にゆっくり顔を上げると。
犬が風をイメェジしたブレスを。
猫が蔦をイメェジしたネックレスを。
其々、満足そうに手に持っていて。
「お支払いは、御一緒で?」
「いえ、別々にお願いします」
「消費税込みで、どちらも1000円になります」
事務的な受け答えをしつつ。
だけどさっきの2人の言葉がちょっと嬉しかったから。
営業スマイルとは違う笑みを浮かべて。
ソレに双子が顔を赤く染めたのは・・・・・・まあ、俺のこのビボウ、だし?
「ありがとうございました」
仲良く店を出て行く2つの背中を、笑顔で見送って。
ふ、と脳裏にデザインが浮かんだ。
忘れない内に、とスケッチブックに手を伸ばす。
そして描いたのはリング。
羽根の彫りに、ムゥンストォン。
光の筋に、ブルゥサファイア。
ソレはきっと。
あの2人の指に、とても良く似合うだろう。
店を出た後の、お客さん2人の会話。
「ね、今度くにとけん連れて来よっか?」
「天国と健二?止めとけアイツラ2人は」
「えー何でー?」
「あの店の商品全部買い占めそーだ」
「・・・・・・う。言えてる」
「特にあの店員。モロにアイツラの好みストライクど真ん中だぞ」
「・・・・・・あう。そーいえば・・・・・・」
「アイツラの事だ。ぜってぇオトしに掛かるに決まってる。んなアブねぇヤツ等に教えられるか」
「あー新一もしかしなくてもあのおにーさん気にいっちゃったんだー浮気だウワキー」
「あ?人の事言えんのかよバ快斗」
「・・・・・・ハイ言えませんゴメンナサイ」
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