何気無く立ち寄った商店街。
別に買いたいモノや必要なモノなど無かったんだけどな。
言ってみれば単なる暇潰しで。
黄昏前。多くなった人通りの中を、縫う様に歩く。
人が多いのは好きでは無くて、速攻後悔したけど。
一目で他国の血が混じっていると判る蒼い眼の所為か、ソレとも額に付いた傷の所為か。
俺の容姿は、結構悪目立ちするらしい。
周囲から向けられる視線が何と無く痛い。
やっと通りを抜けて、1つ溜息。
・・・・・・帰ろう。真っ直ぐ。
そう思った時だ。
一軒の店が、オレの目に留まったのは。
装飾店
『 R U B B I S H 』
惹かれる様に、黒と木を基調にしたシックな外観へと近付く。
黒い縁に曇硝子の扉。
シルバーのプレートに彫られているのは『OPEN』の文字。
何と無く、ソレはオレの好みに合っていた。
扉の両隣に付いてある出窓は可也大きくて。
『 R U B B I S H 』。・・・・・・変な名前だ。『ガラクタ』なんて。
覗けば薄く白いカァテンの向こうに、小さなテェブル。
こんな店、初めて見た。出来たばかりなんだろうか。というか何の店だろう。
興味を惹かれて扉を押す。しゃらん、と何処か涼しげなベルの音。
見上げてみればそのベルも、どうやら銀製。
ぐるりと店の中を見回してみる。柔らかいクリーム色の壁と、深い木の色の床。
8畳くらい。あまり広いとは言えない店内。
左右の壁際の棚には、多分原石だと思われるくすんだ色の石が陳列していて。
丸い4つのテェブルの上には、色々なアクセサリーが多すぎず少なすぎず並べられている。
そして店の奥。小さなカウンターの向こう側で。
店主らしき人物が、ゆたりと読んでいた雑誌から顔を上げた。
「いらっしゃい」
ふあり、と。
ノンフレームの眼鏡の向こう、目を細めて緩く微笑む。
小さく首を傾げた際に、さらり、と揺れた黒髪。
明るさを抑えたオレンヂ色の照明の下で、細い指が雑誌を閉じ。
・・・・・・何て、言ったら良いのか。
オレは、他人の外見の美醜とやらに全く頓着しない人種だ。
多分、周りに居る人間や知り合いや友達が標準を軽く越えた美形揃いで、そんな彼等を見慣れている所為なんだろうけど。
だから、ちょっとやそっとじゃ人の容姿に驚いたりしない。
だけど。
・・・・・・こんな美人、初めて見た。
美人、って言葉。男の人には褒め言葉じゃないかも知れないけれど。
でも、ソレ以外の言葉が思い浮かばない。
頭に、熱が集中するのが厭でも判る。
多分今、オレの顔は真っ赤になっているんだろう。
そう思うと急に恥ずかしくなってきて、慌てて顔を逸らした。
――――――露骨。だかったかも、しれない。
もう、このまま出て行ってしまおうか、でも入って来たばかりなのに。
ぐるぐる考えていると、不意にテェブルの上のブレスレットが視界に入って。
無意識の内に、手が、伸びていた。
燃え盛る炎を長く細くそして冷たく凍らせた様な。
精巧で、繊細で、綺麗なデザイン。
どうしよう、と思う。だって、戻したく、ない。
オレ、物欲も薄い方だった筈なのに。
服とか靴とか着られれば良いって考えで、良く皆から、もう少しお洒落しろよお前、とか言われているのに。
その筆頭であるサイファーは、良く。「一目惚れしちまってよ」とか言いながら小物を買ってくるけれど。
その、嬉しそうに買ったモノを見せびらかす時の気持ちが、今なら判る様な気分。
迷いを捨てて、レジへと直行。
美人な店員が、ゆたり、と椅子から腰を上げる。
「・・・・・・コレを」
ドギマギしながらブレスを差し出す。
受け取った彼の指が、微かに掌に触れて、余計ドキン、と胸が高鳴った。
商品を包む指、とか。柔らかい笑みを絶やさない処、とか。
細くて、繊細で、とても綺麗。
「はい。1000円になります」
「・・・・・・え?1000円?」
財布から札を出しながら、思わず呟く。
もっと高いかと思ってた。
考えていた事が顔に出ていたんだろう。店員は、ふわふわと笑いながら。
「テェブルの上の商品は全部、1000円均一ですよ」
プレェトにも表示してあるでしょう?と言われて後ろを振り返れば。
『ALL¥1000-』と彫られた、やっぱり銀の小さなプレェトが、テェブルの端に乗ってあった。
・・・・・・本当に1000円均一・・・・・・
良いんだろうかそんなに安くて。元は取れているんだろうか。
取れてないんだったら、その内経営難でこの店潰れてそうだ。
場所的にも、商店街から少し離れているし。
オーナーに商才が無いのかも知れない。
まあ、金持ちの道楽で開いているのなら、その心配は無いだろうが。
「ありがとうございました」
微笑む店員から、包装されたブレスを受け取って。
漸くオレは店から違和感無く出る口実を得る。
もう少し、この静かで穏やかな空間に居たい、とも思ったけれど。
後ろ髪引かれる様な思いで出口へと向かう。
そして扉に手を掛けた瞬間。
しゃらん。
「あら、ごめんなさい」
外側から開けられた扉に、柔らかい女性の声。
いえ、と首を振って身体を横へ逸らすと、有り難う、と微笑まれた。
・・・・・・め、眼のやり場が・・・・・・
入ってきたのは綺麗な女性だったけど。その・・・・・・服、が。
ケバいという程でも無いが、露出度が高くて。
この人に似合っているといえば、似合っているんだが。
その女性の後に続いて、女の子が2人、入ってきて。
入れ違いでオレは店の外へ出る。
その、背後。
女の子特有の元気な声が、奥の店員に向かって、声を掛けたりしていた。
「こんにちわ〜、さん!」
「遊びに来ちゃいました〜!」
「あれぇ、夏実ちゃんにレナちゃんにヘヴンさん。久しぶりー」
「どぅお?お店繁盛してるぅ?」
「あっはっは見たまんまだよ」
「みたいねぇ」
扉が完全に閉まる直前に耳に拾った音。
・・・・・・ふぅん。、っていうのか。あの人の名前。
何か、得した気分だ。
手の中にある包装紙と。新しく覚えた旋律と。
小さく笑って、オレは又この店に来よう、と思った。
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