この世界に留まろうと決めた理由?
そんなの、簡単だ。
中途半端に発達してしまった文明と。
中途半端に廃れてしまった不思議の力と。
境界は曖昧。そのクセ、決して混じり合う事が無く。
嘗ては誰でも持っていた『眼』には、現実やら常識やらのヴェールが掛かってしまい。
その所為か、例えるなら精霊や、妖怪や、霊魂といったモノ達が行き場を失って、追い遣られて。
世界からの干渉が、稀薄だった。
そして、何より。
この世界に、『俺』を知る者はおらず。
この世界の人間の殆どが、基本的に他者に無関心だったから。
・・・・・・・・・・・・無関心、だと。思ってたのに。
ちょっと、選択誤ったかもしんない、とか考える今日この頃。
装飾店
『 R U B B I S H 』
俺がこの世界に来て、まず最初に考えた事は。
ネグラを、確保する事だった。
やっぱ、当分ココに居るって決めたからには、住むトコは必須だろ?
だから頑張って稼ぎましたともさ。家買う為に。
それに、金さえあれば戸籍やら何やらどーにでもなったし?
元々術師で忍者だった事もあって今はハッキリ言って人外だ。
短期間で稼ぐなんて、俺にとっちゃ朝飯前でしたとも。
世界変わってまで、暗闇街道に片足突っ込んだ仕事するハメになるとはなー、とは思ったけど。
そんな仕事とも、予定の金額溜まったからこの間よーやっとオサラバしたトコ。
そして目を付けた物件は、都会の中の田舎。
そんな感じの処にある、商店街の外れの小さな一軒家。
入る人全部が何故か長続きせず直ぐに手放すとかいう、曰くありげな物件として激安で売られてたのを難無くゲット。
・・・・・・確かに長続きしないハズだと思ったね。初めて目の当たりにした時。
浮遊霊の通り道になってた。
ちゃんと祓ったけどな。
朝。きっかり7時50分。ゴミを出しに外に出ると。
毎度の如く井戸端会議に花を咲かせているオバサマ達。
・・・・・・だけど日を追う毎に、年齢層が幅広くなっていたり人の数が増えていたりするのは気の所為か?
「あら、さんおはようございます」
「おはようございます」
掛けられた声に内心渋々、だけど表面上にっこり笑って挨拶すれば。
「さんが笑ったわよ〜!!」
「撮った!?ねぇ誰か今の撮った!?」
「ダメ!!逃した!!ああんくやしぃ〜い!!」
携帯握り締めながら、其処彼処で起こる黄色い声。
・・・・・・別に、いーんだけどね。
近所のオバサマ達は何かと良くしてくれるし。
人の顔見る度にキャピキャピはしゃいでる女の子達も、見てる分には可愛いと形容出来る。
だけど、こう毎回だといい加減呆れを通り越して疲れてくるんだよな。
別にガンたれて凄み効かせたっていーんだけど。
ご近所付き合いを円滑にする為には・・・・・・やっぱ、ね。
素行の良い大人しめの好青年で通しておかないと。
ソレに、俺は横にはべらせるよりも、鑑賞に向いているそうだ。
例えるならば、ブラウン管の中のアイドルみたいな。
自分より綺麗な男を彼氏に欲しいとは思わないらしい。
女としての沽券が何たらカンたら、とか言ってたけど。
だから、本気でアプローチ掛けてくる様な勇気ある女性は今んトコいない。
自分のビボウに感謝だね。
そんな事を思いながら。
俺は話好きなオバサマ達に捕まる前に、とそそくさと家の中へ入った。
そして、午前10時。
俺は表通りに面した扉に吊るしてあった銀のプレートを引っくり返す。
『クロゥズ』から『オゥプン』へ。
何でも屋を廃業して、その時稼いだ金は、半分以上戸籍偽造とかこの家の購入費とかに消えた。
まあでも、ハッキリ言って、贅沢さえしなけりゃ数年は働かなくても暮らせる額が残ってる。
だけどなー。ソレはちょっと、退屈なんじゃないかなー、なんて思ったりして。
そんな時、街中を歩いててふと目に留まった、路上販売。
銀と、石の、アクセサリー。
そして思い付いた、暇潰し。
ソレから速攻、1階部分を改造しまして。
この度、俺は店を開けました。
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