「――――――はい、終わり」

 とさり、と崩れ落ちる相手の身体を見下ろして、俺は小さく息を吐く。



 手には今回の戦利品・・・・・・もとい、奪回を依頼されたどっかの製薬会社の研究成果が入ってるフロッピー。

 後はコレを依頼人の元へ届ければ、今回の仕事は終わりだ。



 それにしても――――――



 ちらりと周りに視線を巡らせる。

 ソコにはサングラスに黒スーツの、如何にも堅気じゃねーぞヲイヲイみたいな強面ニーサン達の屍累々。

 ・・・・・・イヤまだ生きてるケド。



 コレってそぉんなに、価値のあるフロッピーなのかね?



 その気になれば透視で内容見る事も出来るけどさ。

 ゼンゼン興味無いから別にそこまでして見てやろうって気にもならない。



「さて、と。帰るか」

 目の前に翳して見ていたフロッピーを懐の内ポケットに仕舞い。

 俺はサクサクと強面ニーサン連中を無視して歩き出した。




 




 




 




 




 




 
装飾店

『 R U B B I S H 』




 




 




 




 




 




 
「――――――確かに、コレだ」



 バカが頭に付きそうな程高そうなホテルのロビー。

 差し出したフロッピーを優雅な仕草で受け取った、スーツ姿の男が満足そうに頷く。

 育ちの良さそうな、静かな笑顔が似合う青年だ。



 名前は知らない。聞く気ないし。その理由もないし。

 どっかの研究所の所長してるとは言ってたけど、ソレにしては見た目若いから、半分くらい信じて無い。



「でも驚いたよ。本当に1日で取り返してくれるなんて」

「・・・・・・あぁら。信じられてなかったワケですか」

「いや、信じてなかった訳じゃない。ただ、相手が相手だっただけにね」

「出来ない事は言いませんよ。コレでも、有言実行、が俺のポリシーなんで」



 静かに微笑む彼に、俺も負けじと微笑って返す。

 すると「すまない」って小さく謝って。



「君が『月』だという事を忘れていた・・・・・・噂に違わない、凄腕の何でも屋だね」



 ・・・・・・いやーん。噂になってんの、俺。

 出来るだけ難易度の低い仕事ばかり選んできたから、そんなに目立ってはないと思ってたんだけど。



 ま。別にいっか。



「それじゃ、ま。俺はコレで失礼させてもらいます」

 渡すモン渡したし。貰うモン貰ったし、ね。



 ソレにココ、高級ホテルのロビーだろ?

 ジーンズにTシャツ。目深にキャップを被った俺の格好はかーなーり場違いで、さっきから周りの視線が痛いんだ。



 そう言ってソファから立ち上がった俺・・・・・・だったけど。

「待ってくれないか」

 やぁんわり、と掛けられた静止の声。

 首だけを振り返らせてみると、指を組んだ彼がにっこりと笑いかけてきた。



「何です?」

「実はこの後約束をしていた人が、急用で会えなくなってね。1時間程時間が空いてしまったんだけれど。どうかな、此れから一緒に食事でも?」

「・・・・・・ナニユエ俺?」

「君に興味が沸いたから」



 胡散臭そうな目で見たら、笑み付きで返された。

 うぅむ。そんなサックリ言われちゃうと、逆に返答に困るぞ。

 ソレに俺、この後行くトコあるし。



「折角のお誘いですけど。遠慮しときます」

「ソレは残念」



 素直に断ったら、以外にもアッサリ。

 残念だ、なんて言いながらゼンゼン残念そうじゃない顔で、ふわふわ微笑む。



「何か困った事が起こったら、また君に依頼するとしよう。その時は宜しく頼むよ」

「あ。ソレは無理」

「・・・・・・どうしてだい?」

「何でも屋の仕事は、今日で廃業なんで」



 ニッ、と笑って、「それじゃ」なんて一言残して歩き出す。

 後ろで彼が呼び止める声がしたけど、そんなの無視して。



「・・・・・・不動産屋さん、まだ空いてるかなぁ」

 腕時計を見ながら、俺は足早にその場から退散した。




 




 




 




 






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