「にーちゃんっっvv」
軽快な声と共に、どぉんっ!!という衝撃が来た。
思わず眉を顰めて首を後ろにやると。
何が嬉しいのか楽しいのか、俺の腰に腕を回して引っ付いている、金髪の子供。
「あのなあ・・・・・・」
思わず、いらっしゃいも忘れて溜息を吐く。
てゆーか、いらっしゃいっていったら、玄関先で言うモンだよな。
ココは台所だぞ?家の人間に無断でココまで上がってくるってどーよ。
しかもお前、俺が今何してるか、判ってんのか?
料理してんだぞ?包丁持ってんだぞ?ほ・う・ちょ・う。
んな時に突進なんかしてくんな。
・・・・・・気配に気付かなかった俺も俺だけどさ。
取り敢えず注意してやろうと口を開けば。
「おい、危ないだろーがウスラトンカチ」
・・・・・・言おうとした科白を取られた。
しかも、ソイツはべりっ!!と俺に張り付いてた物体を剥がしてくれた。
「さんきゅー、サスケ」
声を掛けると、ナルトの首根っこを猫の仔みたく掴んでいるサスケが、俺を見上げ。
「いや・・・・・・切ったりしてないか?」
「ん。だいじょーブイ」
気遣ってくれてありがとお。
そして今度は、面白くなさそーな顔してるナルトに向かって。
「お前も、処構わずに飛びつくな」
おお。もっと言ってやれサスケ。
心の中でエールを送ってやると、しかめっ面してサスケを見るナルト。
「んだよサスケ。イイじゃん別に」
「良くない。もしさっきの衝撃で、が手を切ったりしたらどうするつもりだ」
そうだそうだ。又くもってそのとーりっ。
反省して少しは自重しろ、バカナルト。
とかうんうん頷いていたら。
「いーんだよオレは。ソレにオレがに怪我さす様な事するワケないだろ?」
「まあ、それはそうだが」
・・・・・・開き直りやがったよ。しかも何だその自信は。
サスケもソコで同意しないっ。ナルトが図に乗るだろっ。
つーか。ソレ以前に。
「・・・・・・で?お前ら何でココにいんの?」
任務はどーした任務は。
訊ねた俺に、2人の子供は顔を見合わせて。
次いでにさり、と笑みを浮かべた。
・・・・・・う。何かイヤな予感。
「今日は休みー」
「で、朝からナルトに、俺の修行に付き合ってもらってたんだが」
「朝っぱらから起こしに来んだぜコイツ?早くしろって急かすしさー。だからオレ朝からパン一個しか食ってねーの」
「俺も今朝は少ししか食べてない」
「んでさー、一息ついたトコで空腹思い出してさ」
「そろそろ昼時だった事もあったしな」
・・・・・・あう。なんか2人の次の科白が予想できるぞ。
「「とゆーワケで、の飯食いに来た」」
・・・・・・・・・・・・やっぱし。
2人に向かって、俺は思いっきり盛大な溜息を吐いた。
ぐちぐち言いつつ、俺は昼飯に並べるおかずの数を5品ほど増やす。
・・・・・・コレで、今日の晩飯のおかずが無くなっちまった。後でまた買い物に行かねば。
そして出来たものからテーブルの上に並べてやると、もんのすっげ勢いで食いだした。
・・・・・・ア然ボー然。
食わせてもらってない餓鬼かよお前ら。
思わず固まって眺めてたら、何時の間にやら無くなっている小松菜とガンモの炊きもの。
あう。俺けっこーアレ好きだったのに。
とか言ってる間に第二の犠牲者(?)。ああああ俺のタコ酢が・・・・・・
こーなったら春菊のお浸しだけは死守してやる。
とか思ってたら、鯖の竜田揚げと海老のシュウマイが綺麗さっぱり2人の子供の胃の中に。
ご飯だって3合炊いてたのに、今はお釜ん中すっからかん。
むうう。恐るべし成長期(?)。
「ご馳走様でした」
「ふわぁ〜、食った食った!!」
律儀に手を合わせるサスケの横で、ご満悦な顔してナルトがばたんと仰向けに倒れる。
・・・・・・そーかい。ソレは良かった。
俺は全然、全く、これっぽっちも食った気がしてねーよ。
つーか、人ん家で食い倒れんな。ソコのおバカ。行儀悪い。
そんな子には、デザート出してあげないぞぉ。
「サスケー。杏仁豆腐食う?」
「ああ、食べる」
「えっ、、オレには?」
「ナルトは腹一杯なんだろ?陸に打ち上げられたセイウチみたく伸びてるとこ見ると」
いぢわるたーっぷりに言ってやると、がばぁっ!!と起き上がって姿勢を正す。
「ぜんぜんっっ。まだ入るって!だからオレにも杏仁豆腐!!」
「ん〜。どーしよっかなー?」
「ってばっ」
喚くナルトにくつくつ笑って、俺は3人分のデザートを台所へ取りに行った。
・・・・・・多分、こーゆーのが『楽しい』って事なんだろうな。って思いながら。
皿洗いを終えて、居間に戻ってみると。
縁側の、日当りの良い場所で、ぬくぬくと気持ち良さそうに寄り添って丸まる、2つの物体。
まあ、適度な運動をして、腹一杯食って。そしたら眠くなるのは自然の成り行きなんだろうけど。
思わず苦笑して、転がる2人の頭の近くに、腰を下ろす。
見上げた空にぷかりと浮いている太陽は、ほんの僅かに中天からずれていて。
柔らかい風が、ゆたりと靡く。
ソレが、サスケの黒髪とナルトの金髪を、小さく揺らして。
――――――気が付いたら、2人の頭を撫でていた。
自分でやった事に、ちょっと、驚く。
思わず手を引っ込めようとして、でも、と思い直し。
綺麗で優しい髪の感触を、楽しんだ。
さらさら。さらさらさら。
眠ってる子供の体温は高い。その高さがまた、心地良いと思う。
・・・・・・てーか、俺、ちょっと変わったな。
夜になれば相変わらず、息するのと同じ様に人殺してるし。時々妖退治してるし。満月の晩には壊れたりしてるけど。
最近、笑顔とか、意図せずに、自然に出る様になった。
触られても、嫌だって思わなくなった。
・・・・・・触っても、イイのかなって。思う様になった。
ソレはこの子供達2人だけ、の限定で。
しかもまだまだぎこちないモノだけど。
でも。何か。壊れ方が、狂い方が・・・・・・軟化した。
多分ソレって、コイツラの所為、なんだろうな。
全く異なった、だけど同じ孤独を知る、この2人の小さな、子供。
ずかずかと、勝手に人の領域に土足で上がり込んできて。
俺の事を、考え方を――――――在り方を。拒絶、じゃなく否定、して。
それどころか怒って。俺の方が目上なのに、叱り飛ばしたりして。
只の道具でしか無かった俺の事を、人間だと。言葉で、態度で言い切り。
色んな事を、教え。感情というものを、植え付けて――――――心を、持たせるまでに至った。
ソレはまだ、俺の中では希薄なモノだけど。それでも。
愛おしいと。慕わしいと。思わせる何かが産まれているのは、確か。
闇を知っていながら、思いの半分以上を黒く染めていながら。
溢れんばかりの希望と、夢と、未来と、光と。様々な可能性に満ち溢れた、強い強い2つの魂が。
・・・・・・とても、大切だと、思うんだ。
その思いに、未だに俺は酷く戸惑う。
コレで良いんだろうかって、自問自答する。
そして、基本的に人間というものを憎み切れない、人間を愛して止まない俺の中の優しい妖は、ソレで良いんだと囁くけど。
お前にも、人並みの幸せを感じる権利くらいあるんだって、内側から諭すけど。
未だに、俺は。赦せないから。
他の誰が何を言っても。俺が、俺自身を赦せないから。
――――――やっぱり。俺はコイツラに触ってられる権利なんて、無いんだろう。
そうっと、髪に触れていた手を引っ込める。
すると、むずがる様に2人が身じろぎした。
まさか、髪撫でてる事バレた!?とか思ってちょっと固まってたら。
「・・・・・・んー・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・?」
そうでも無いらしい。2人とも、忍にあるまじき寝ぼけ顔だ。
眼をこしこしと拳で擦りながら起き出すサスケとナルトは、実年齢よりも幼く見える。
まあ、サスケはまだ下忍だから解らんでもないが・・・・・・気ぃ緩み過ぎだぞナルト。
「お前ら、用は済んだんだろ?だったら寝てねーでとっとと帰れ」
そんな2人に、内心で笑い、呆れた眼差しで言い捨てると。
「・・・・・・うー、嫌だ、めんどくせぇ・・・・・・」
「・・・・・・まだ、眠い・・・・・・」
2人揃って、ぐずる。
しかも。
「うぉわっっ!!?」
イキナリ左右からぺたりと張っ付かれて、べちゃ、と俺は後ろに倒れ込んでしまった。
「をいをいこらこら、お前ら、何」
「・・・・・・何って、ひる、ね・・・・・・」
すぅー。
・・・・・・あ。サスケ寝た。寝やがった。俺の左腕枕にしてっ。
「あーのーなー、お前ら」
「・・・・・・、うるせ、ぇ・・・・・・」
くー。
うわっ、ナルトまで俺の右腕枕代わりに寝やがったっっ。
何コレ?何なんだよ一体?
俺ってば、ついさっきコイツラにはもう触らないって決めたばっかだったのに!!
言った傍からコレですかい!?
しかも俺、この体制ちょっとどころか可也キツイんですけど!?
絶対、絶対起きたら両腕痺れてるって!!
・・・・・・でも、だからといって起こすのはちょっと・・・・・・忍びない、んだよな。
ナルトは、俺みたいに夜の仕事だけしてれば良いってワケじゃなく、昼間は昼間でストレス溜める様な演技を延々続けてるし。
サスケはサスケで、毎日猛修行してる挙句、巻物読む為に睡眠時間削ったりしてるし。
はっきり言って、小さな身体には不釣合いな程の疲労が、溜められている。
だから。甘いって言われちゃソレはソレでお終いだけど。
・・・・・・コレは、もう、諦めるしか無いな。
はう、と溜息一つ吐いて、両腕を折り曲げ2人を抱き寄せ。
せめて、今だけは心の底から休める様に、願いを込めて。
俺は、長い永い間継承され続けてきた、膨大な量の一族と妖の記憶の片隅に埋もれていた、とある、歌を。
癒しと、安らぎと、眠りの術歌を。
小さく、紡ぐ。
二時過ぎ。
少し遅めの昼食を採ろうと、執務室から出てきた老人は、視界に入ってきた光景に、目を細めた。
「・・・・・・ほほう。此れは此れは」
其処は、日当りの良い縁側。
金髪の子供を右に。
黒髪の子供を左に。
其々腕に抱いて、2人に挟まれて眠る、青年。
金の子の右手と、黒の子の左手は、青年の胸の上で、繋がっており。
太陽の光は、常より柔らか。
凪いだ、風。彼等の寝息を、乱さぬ様に。
「・・・・・・上々、上々」
静かに、しかし慈愛と喜びに満ちた笑みを浮かべ。
老人は、滅多に見られぬ、穏やかな風景を壊さぬ様に、其の場を離れた。
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